アジアの社会問題に挑むスタートアップ3選--地方教育、ヘルスケア、高齢化


「Social Venture Challenge Asia」最終選考会が開かれた会場にて

 6月12日、シンガポール国立大学(NUS)で「Social Venture Challenge Asia」の最終選考会が開かれた。このプログラムはNUSが運営する新興企業創出プログラムである「NUS Enterprise」が、シンガポールの金融大手DBSが運営する「DBSファンデーション」とパートナーシップを結び、5カ月に渡って新しいソーシャルビジネスの発展を支援するもの。

 このプログラムでは段階的な選考が実施されるが、アジア30カ国から集まった全683の参加チームの中で最終選考にまで残ったのは、タイ、ミャンマー、インドネシア、インド、台湾を拠点に活動する5チーム。主に教育、ヘルスケア、フェアトレードなどの社会問題にアプローチしようとするチームが揃った。優勝チームには10万シンガポールドル(SGD)、準優勝チーム(2チーム)には3万SGDと2万SGDがそれぞれ贈られた。

地方の教育課題を解決するタイの「Learn Education」


優勝した「LearnEducation」

 最終選考会で見事優勝の座を勝ち取ったのは、タイの「Learn Education」。教育サービスが行き届いていない地方都市の教育水準の向上を目的として、同国の教育カリキュラムに沿った授業を学生と教師が1対1で実施できるEラーニングソフトウェア「Human-ware」を開発している。またテストの受験やその結果を分析する機能も備えている。

 同ソフトウェアが主に力を入れている科目は数学と科学。すでにタイの30の学校で導入されており、一部の学校では全学生のテストの点数が31%改善されたという結果が出たという。運営資金は、潤沢な予算を持つ学校からの寄付金、CSR活動を重視する企業からのスポンサーでまかなっている。

 現在は地方都市の初等教育5年生から中等教育2年生までを対象にサービスを提供しているが、将来的にはタイ全土の同学年の人数に相当する500万人の学生にサービスを提供することを目指している。

インド発の血液検査キット「MicroX-Labs」


準優勝した「MicroX-Labs」

 準優勝したのは、インドを拠点に血液検査キットを開発している「MicroX-Labs」。同国では、患者が自分の血液タイプが分からないために、たとえ救急患者だとしても医師が即座に処置できない事態が発生しており問題視されている。

 通常使用される「CBCtest(Complete Blood Count Test)」と呼ばれる血液検査の手法は、結果が出るまでに2日を要する。一方、MicroXが開発したキットを使用すれば、それを数十分にまで短縮することが可能だ。

 主な収益源は、キットの一部パーツであるカートリッジやキットを使用するための機器の販売による収入。今後は、患者の身辺で検査をする「ポイント・オブ・ケア」をコンセプトに、低収入地域の医療施設も導入できるコストの低い医療器具の開発を進め、血液検査にかぎらない診療サービスの提供を目標にしている。

処方薬を訪問配達する台湾の「iHealth」


同じく準優勝した「iHealth」

 もう1チーム、準優勝に選ばれたのは、台湾を拠点に高齢化問題に取り組む「iHealth」。医師が作成する診断書をオンラインで管理し、専門医師による処方薬の訪問配達を可能にするサービスを提供している。

 患者は、自分の診断書を、電話、ファックス、メール、ウェブサイト、モバイルアプリケーションを通じて専門医に送ることで、簡単に薬の配達を依頼することができる。配達時には専門医と対面でのカウンセリングも可能なため、慢性的な病気にかかっている患者にとっては特に安心だ。

 すでに、近所に医療機関がない場所に住む一部の高齢者や身体障害者に利用されている。今後も「Equal access to healthcare is a human right.(ヘルスケアへの平等なアクセスはすべての人々の権利である)」をコンセプトにサービスの開発を続け、2035年には高齢者の割合が人口の35%に及ぶとされる台湾の高齢化社会の負担軽減に貢献することを目指す。

 最終選考会では他にも、インドネシア産のカカオのフェアトレード、ミャンマーの医療機関と提携して貧困層の妊婦の体調管理アプリの開発に取り組むチームによるプレゼンテーションもあった。

 審査員には世界最大級の社会起業ネットワーク「Ashoka」のグローバル事業を統括するFEC(Full Economic Citizenship)グループの代表者であるValeria Budinich氏も参加。「今後アジアでのソーシャルビジネスを持続可能なものにするためには、企業などが持つ既存のシステムとの統合やコラボレーションが欠かせない」と語った。

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