70年の歴史を持つ“ギターのフェンダー”が取り組むデジタル戦略--CEOが語る新規事業

加納恵 (編集部) 松浦文生(カメラマン)2018年11月07日 08時30分

 老舗のギターブランドである「フェンダー」が、ここ数年、積極的に新規事業を立ち上げている。2015年にはイヤホンブランド「オーリソニック」を傘下に収め、フェンダーブランドのオーディオを発売。2017年には、ギターやベースなどをオンラインで学ぶeラーニングやアンプアプリなどの提供を開始した。

 1946年の設立から72年。「ギターのフェンダー」として世界に知られる会社が新たなビジネスをどう立ち上げ、そこから何を得ようとしているのか。フェンダー・ミュージカル・インスツルメンツ・コーポレーション CEOのアンディ・ムーニー氏に聞いた。

フェンダー・ミュージカル・インスツルメンツ・コーポレーション CEOのアンディ・ムーニー氏
フェンダー・ミュージカル・インスツルメンツ・コーポレーション CEOのアンディ・ムーニー氏

eラーニングが「ギターを諦める人」を食い止める理由

 フェンダーは、米アリゾナ州スコッツデールに本社を構える楽器メーカー。主力商材は言わずとしれたギター、ベース、ギターアンプなどだ。ムーニー氏は、2015年にCEOに就任。それまでNIKEやDISNEY CONSUMER PRODUCTS、QUICKSILVERなどで、CMOや社長などを歴任してきた。

 「フェンダーは70年もの歴史を持つ素晴らしい会社。高い品質でギターやベースを提供でき、優良なお客さまも数多く抱えている。グローバルで確立されたブランドを持っている」と自社を評する。そんな中で新規事業を立ち上げたのは「高い成長が実現できるビジネスだから。そして、主力である楽器ビジネスに競争優位性をもたせることができるから」と話す。

 2017年7月に立ち上げたeラーニングは、現在7万人のユーザーを獲得しており、12月までに10万人の規模まで拡大すること目標にしている。ギターはクリスマスが最大の商戦期。「1年で一番売れるのが12月。その商戦期を控え、10万人の目標は達成できるのではないかと思っている」と、年末に向けて期待を寄せる。

 eラーニングはオンラインを使ってすぐに登録できることがポイントの1つ。ギターの購入に合わせてすぐに動きが出てくる即時性を持つ。加えて注目すべき点はギターユーザーの継続性の高さだ。

 「私たちが1年間でギターを販売するうちの45%は初めてギターを買う人。しかし、この中の90%が1年以内にギターを弾けるようになることを諦めてしまう。その一方で残りの10%は、一生ギターを愛し、大事にしてくれる人たち。平均で5~7台のギターを購入してくれるというデータも出ている」と現状を話す。

 フェンダーでは、ギターを弾き続ける10%を伸ばすことが売上げ増につなげる戦略の1つ。この継続性に対しeラーニングは大きく寄与しているという。

 「ギターを弾けるようになるには練習が必要。独学で覚える人もいるが、ギター教室に通う人も多い。しかし、教室に通うのは時間も手間もかかるし、合わない先生に習わなければならない場合もある。個人の先生に習うよりもオンラインでギターを覚えたいというニーズは常にある」と、ギターを習得するまでの道のりを説明する。eラーニングは時間を選ばず、いつでもどこでも自分の生活スタイルに合わせて、ギターを習える便利なツール。ムーニー氏は「学習のトレンドはeラーニング」と言い切り、このツールが弾けずにギターを諦めてしまう層を食い止める役割を果たしているという。

 eラーニングで学習する際は、楽器の種類、居住国、性別、年齢などの情報を入力してもらい、アプリを立ち上げによって学習している時間帯や時間数までがわかる。フェンダーでは、これらの情報をデータとして蓄積し、ユーザーの属性や行動を把握。アプリや楽器の開発に役立てている。同様に、ギターやベースのアンプ用アプリからも情報を取得し、今どの国でどれだけの人がどのくらいの時間そのアプリを使っているかがわかる。

 「ギター初心者は、最初の1年で通常の人の約4倍の金額をギターの練習に投資しているというデータが出ている。それだけ高い意欲のあるユーザーをeラーニングならば逃さない。eラーニングは、ギターに触れる人に対し、最初のビジネスチャンスを得られる」と話す。

 eラーニングには、ギター、ベース、ウクレレまですべてのプログラムにトライアルレッスンを用意。初心者でも始めやすい環境を整える。「大きなチャレンジだったが、eラーニングはお客様をしっかりと獲得するために必要な第一歩。スタートしたばかりのビジネスだが、とても早いスピードで伸びている」と好調な伸びを示している。

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