この連載では、シンガポール在住のライターが東南アジア域内で注目を集めるスタートアップ企業を現地で取材。企業の姿を通して、東南アジアにおけるIT市場の今を伝える。
ベトナムは今、本気でアジアのシリコンバレーを目指している。ベトナム政府と科学技術省は、2013年6月に「Silicon Valley Vietnam」プロジェクトを発足させた。技術とビジネスを結びつけ、イノベーションを起こすためのエコシステムを国内で構築することが目的。ホーチミンとハノイの2都市で起業家育成のためのプログラムを実施し、政府はこれに40万USドルを投下する。
プロジェクトの発足式で科学技術省のアドバイザーが話したところによると、この政策の背景には長期的に見たときの経済成長の停滞への懸念があるという。実際、足下で2013年1~3月期の実質GDPは前年同期比4.9%増と、2012年10~12月期(同5.5%増)から伸びが減速。内需に一服感がある中で、より競争力の高い産業を伸ばしていかなくてはならない状況がすでにある。
とりわけベトナムで伸びているITの領域が「eラーニング」だ。後述する企業の話によると、アジアのeラーニング市場は2016年までに115億円にまで拡大、さらにベトナムは同市場の年成長率が44.3%(2012年)と世界で最も高い。今後、国内のインターネット普及率が上がることなどから、さらなる成長が見込まれている。
「DeltaViet」はその先駆けといえるeラーニングサービス。現在はベトナム語にのみ対応しており、研修コンテンツを動画で配信している。共同創業者が米国のeラーニングサービス「Udemy」に着想を得たことがきっかけに、2013年5月にサービスを開始。現在までに2万5000人のユーザーを獲得している。
DeltaVietでは、まずトレーナーを選定し、研修コンテンツを共に企画する。次に専用のスタジオで研修用の動画を撮影・編集しサイトで公開する。一部無料のコンテンツもあるが、多くが有料で提供されており、安いものは約20万ドン(日本円で約970円)から用意されている。中には4600人以上のユーザーが利用するコンテンツもある。ユーザー課金により得られた収益の50~70%がトレーナーに還元される。
主なターゲットは19~29歳のインターネットユーザー。1つのコンテンツは約5回の講座で構成されており、コンテンツはソフトスキルを向上させるものに特化している。あがり性を和らげるような「日常のコミュニケーション能力向上」などが人気。ユーザー数を増やすための施策は、Google AdWordsやSEO、Facebook広告、Facebookページ、アフィリエイトなどネットマーケティングが主だそうだ。
ユーザーの支払い方法がベトナムのネットユーザーの特徴を表している。最も多いのが、SMSを活用した送金サービスを通じた支払い。これが全体の約9割を占めている。残りの5%ほどがインターネットバンキング、3%ほどがオフィスでの対面支払いとなる。セキュリティに対する不安などから、ネット上のクレジットカード決済が普及していないことが伺える。
DeltaVietは2014年に資金調達を予定しており、さらなるサービスの拡大を目指す。将来的には英語にも対応し、インドネシアなど東南アジアの周辺国にも進出したい考えだ。
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