朝日インタラクティブは2018年10月4日、都内で最新テクノロジを活用した不動産ビジネスや、都市開発ビジネスの変貌をつまびらかにする「CNET Japan Conference 不動産テックカンファレンス2018~加速する業界変革~」を開催した。同イベントは2018年で3回目を数える。本稿では、アクセルラボ 代表取締役 小暮学氏の講演「不動産とテクノロジの融合 IoT・AIがつくる未来」を紹介する。
身の回りを振り返ると、あらゆる空間にテクノロジが進出している。「Space×Technologyで創造する。いままでになかった、暮らしの未来」を掲げて、AI(人工知能)ホームやIoTデバイスなどを手掛けるアクセルラボは、「これまでの不動産開発はハードウェアのみ進化してきた」(小暮氏)と推察する。紀元前2万年の壁穴式住居から始まり、1860年代は江戸長屋、1940年代に入ると木造アパートが広がり、2000年代は高層ビルが標準的な建物となった。耐震や防災、デザイン、豪華さといった部分に注力する建築要素に対して同社は、「われわれは住居に付加価値を持たせるべきと考える」と疑問を投げ掛ける。
決して住居者がハードウェアを不用と述べているのではない。あくまでもハードウェアは前提要素であり、たとえば、住むだけで健康になる・学習しやすくなる・安心して健康に暮らせる、といったUX(ユーザー体験)を得られる住居空間へ需要移行し、「UI/UXが高い不動産開発が求められている」(小暮氏)と強調した。
一説によれば人が家で過ごす時間は人生の60%を占めるだけに、快適性や利便性の高さは重要な要素に数えられる。だが、エアコンやお風呂がスマートになるだけでは足りないというのが同社の意見だ。たとえば、夜半にトイレに向かうとき、真っ暗な部屋で明かりを付けなければならず、スイッチを押すまでには転倒リスクを抱えてしまう。同社は「家が人に合わせる」ためのテクノロジやソフトウェアが必要だと断言しつつ、海外の状況を紹介した。
現在米国で住宅向けIoT市場を牽引しているのが、Alarm.com、COMCAST、vivint. SmartHome、Honeywellの4社。セキュリティや利便性に対する需要増加にともない、大きく成長しているという。ハイエンド住宅から始まり、現在では一般的な住宅にも広まりつつあるそうだ。アクセルラボが提示したデータによれば、2016年時点でIoTセキュリティを導入しているのは約790万世帯だが、2017年には約1000万世帯まで拡大。既存のホームセキュリティ事業が鈍化する一方で、プラス15.7%の年間成長率を見せている。中国でも同様の動きを示し、欧州はスタートこそ遅れていたが2017年から成長の兆しを見せ始めた。同社によれば「日本は成長の色は見えにくい。だが、ここに来て問い合わせが増え、ようやく市場が温まってきた」(小暮氏)という。
このような背景からアクセルラボでは、宅内のさまざまなものをスマートフォンで制御する「alyssa.(アリッサ)」を2017年2月にリリースしている。玄関の施錠もアプリを起動して状況を確認し、解錠時はタップで施錠するといった具合だ。また、帰宅前にアプリから湯船にお湯をためたり、エアコンで部屋を冷やしたり、床暖房をつけたりすることもできる。
alyssa.のダウンロード回数に対する登録済みユーザー率は46%、そのうちMAU(月間アクティブユーザー)率は92%。同社は「スマホユーザーならご承知のとおり、インストールした数十ものアプリで毎日使うものは少ない。だが、施錠は毎日行う」(小暮氏)と利用頻度が向上した理由を分析し、新しい不動産はソフトウェア開発が重要であることに確信を得たと語った。
次なる展開としてアクセルラボは、「スイッチをクラウドにつなげることで成功したが、壁にあるスイッチがタッチに変わったに過ぎない。次は自動化を考えている」(小暮氏)。具体的には"家自体が状況に応じて温度や明るさを変える世界"を実現するため、人の行動や趣味嗜好(しこう)を自律的に学ぶAIが必要だ。そこで同社は米国で住宅向けAI開発を行うBrain of Things社と戦略的提携をして、「CASPAR」の実用化に取り組んでいる。
CASPARはコネクト、AI、UXの3層構造で成り立つ。モーションセンサやビジュアルセンサ、マイクなどを用いて人の状態を把握するコネクト層。たとえば、掃除機を掛けるなど住居者の行動を学習して分析するのがAI層。この2層から得た結果をトリガーとして実行するのがUX層にあたる。アクセルラボの説明によれば、機械学習が進むと、起床や就寝を検知して自動でカーテンを開閉するような状況が可能だという。同社は「単に生活を便利にするだけではなく、人の状況を検知しながら高齢者のサポートや子ども・ペットの見守りにも活用できるのがインテリジェントホーム」(小暮氏)と語った。
不動産テックの文脈では、既存のalyssa.は不動産関係者の需要に合わせた「alyssa.cloud」を2018年6月から展開している。alyssa.は「alyssa.touch」へ改称。家賃の入出金明細の確認や複数戸所有や物件査定など各種シミュレーションなどをレポートする「alyssa.desk」のほか、入居者との円滑なコミュニケーションを実現する「alyssa.chat」、金融情報や投資を学ぶ「alyssa.college」を包括するソリューションだ。
特にalyssa.chatは、マンションの掲示板に貼られる案内・告知を目にしない入居者にも適確に情報を伝達できるため、「アプリからのプッシュ」(小暮氏)があるのは大きい。分譲マンションでも、総会の案内や出席にも利用できるため、よりスムーズな運用が可能になるだろう。同社は「日本の不動産開発とコミュニケーションのデジタル化」を掲げつつ、各ソリューションの展開を推し進める。
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