ハイテク業界を15年近く取材してきた筆者は、企業が総力を挙げて新製品を発表する場面を目撃する光栄に浴したことがある。なかには、奇妙なものもあった。例えば、Googleの共同創業者であるLarry Page氏とSergey Brin氏がローラーブレードを履いて壇上に登場し、世界初の「Android」搭載スマートフォン「T-Mobile G1」について語った場面だ。
ニューヨークのラジオシティ・ミュージックホールで開催されたサムスンの「Galaxy S4」発表の派手なイベントから、2画面搭載スマートフォン「Kyocera Echo」の発表イベントでパフォーマンスを披露した奇術師のDavid Blaine氏まで(Blaine氏のマジックの方が発表されたスマートフォンよりはるかに印象的だった)、企業は人々の注目を集めるためにさまざまな趣向を凝らしてきた。
だが、あの奇妙な瞬間を、筆者は忘れることができない。
2008年9月23日に発表されたG1は、現在世界中の無数の人々の生活に影響を及ぼしている現象の始まりとなった。20億台以上のアクティブなAndroidデバイスが存在し、10台中9台のデバイスにAndroidが搭載されている今日、このモバイルOSはテクノロジ分野において、間違いなく巨大勢力だ。Androidは現代のスマートフォンの可能性に革命的な変化をもたらし、その体験を一般の人々に届けた。
その全てがG1の発表イベントから始まったのだ。
HTCの当時の最高経営責任者(CEO)で、G1の発表に参加したPeter Chou氏は、「会場に非常に多くのカメラがあったことを覚えている。これは本当に重大なことだ、と感じた」と述懐した。
今日の成功を考えると、当初、多くの人がAndroidに対して懐疑的な考えを示していたことを忘れがちになる。この知名度の低いOSが戦いを挑んだ相手は、Nokiaや「Windows Mobile」、BlackBerryといった強敵ばかりだった。Appleの「iPhone」は既に皆の注目を集めていた。今振り返ると、このイベントは、フラッグシップスマートフォンの発表時にやってはいけないことについての教科書のように思える。
2008年9月23日についにAndroidを披露したとき、GoogleはHTCと提携していた。当時のHTCは他社ブランドのスマートフォンを製造する、知名度の低い企業だった。通信キャリアのパートナーはT-Mobileで、当時のT-Mobileは、全米規模の通信キャリアの中で依然として最下位に甘んじており、苦戦を強いられていた。その当時は、適切な通信キャリアと独占契約を結ぶことが重要だった。
同じくこのイベントに参加したReticle ResearchのアナリストのRoss Rubin氏は、「厳しい戦いが待ち受けていることは間違いないように思えた」と述べている。
このイベントはどこに向かって進んでいるのだろうか、と筆者が疑問に思い始めたちょうどそのとき、Page氏とBrin氏がローラーブレードを履いて壇上に登場した。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」