かつてのスマートフォンSidekickを真似て、スライド式で現れるキーボードを備えていたが、Androidはタッチフレンドリーなユーザーインターフェースなので、キーボードの重要性は低かった。底部はわずかに角度が付いた「あご」のような奇妙な形で、トラックボール式の物理的なコントロールも付いていた。
「G1はどう見てもしゃれたデバイスではなく、セクシーとはとうてい言いがたい。むしろ、思い浮かぶのは、『不思議』とか『変わってる』という言葉だ」。米CNETで最初にレビュー記事を書いたBonnie Cha記者は、そう評した。
さらに独特の外観になっていた可能性もあった。G1向けに作られた最初のデザインは、BlackBerry端末に似ていたのだ。
デザインについては不満も多かったが、Androidソフトウェアと、来たるべきスマートフォンの将来性については、称賛する評価がほとんどだった。
だが、懐疑的になるのは、無理もなかった。Nokia、Microsoft、BlackBerry(当時の社名はResearch In Motion)といった既存の企業がスマートフォン市場で優位に立っていた。Nokiaは、米国ではそれほど知名度が高くなかったものの、全世界では大きくリードしており、その未来を疑う者はほとんどいなかった。
Googleは既にインターネット検索の大手だったが、モバイルへの挑戦ということに関しては、多くが手探り状態だった。
G1は、T-Mobileにとって最終的には成功となるのだが、だからと言って誰もがAndroidスマートフォンに殺到するわけではなかった。米国で第4位のキャリアから強気で打って出るというのは、大成功に直結するものではなかったのだ。
それに、スマートフォンをいろいろいじって楽しむユーザーばかりではなかった。
それから1年経ち、GoogleはVerizonおよびMotorolaとパートナー関係を結んでオリジナルの「Droid」を発表する。1億ドルのマーケティングキャンペーンにも後押しされて、ようやくAndroidはメインストリームに乗った。そのマーケティングとVerizonの販売力、Motorolaのノウハウが組み合わされ、さらには映画「スター・ウォーズ」の影響もいくぶんあった(Verizonは、Droidという名前の使用権をLucasfilmから購入していた)。
最初の発表から10年間で、スマートフォンをめぐる世界は劇的に変化した。かつては、ホワイトカラーワーカーやテクノロジマニアが1台所有しているかどうかという程度だったが、今では一般ユーザーがトイレでもスマートフォンの画面を見続けるほどになった。
現在、販売されているスマートフォン10台のうち9台がAndroidで動いている。業界の収益面で見ると、ハイエンドの消費者を狙うことで、Appleがかなりの部分を占めている。この2社による一騎打ちとなっている形だ。
「全世界のスマートフォンの9割を動かすことになるのは分かっていた、と言ってしまったらウソになる。Androidは、文字どおり世界のつながり方を変えてしまった」とBrodman氏は言う。同氏は現在、M87という無線ソフトウェアのスタートアップ企業を経営している。
MicrosoftのWindows Mobile(のちに、「Windows Phone」と改称)も「BlackBerry OS」も、Nokiaの「Symbian」ソフトウェアもなくなってしまった。各社とも、AppleとGoogleによって設けられた水準に追いつくための対応が遅れたためだ。AppleとGoogleは、アプリストアという概念を重視しており、プログラムと開発者サポートで差をつけた。他の企業が及ばなかったのは、その点だったのだ。
今でも、BlackBerryとNokiaの新機種は登場する。ただし、全てOSはAndroidであり、製造元もかつての会社ではない。BlackBerryという名称を使用する権利は中国の企業TCLが買ったし、Nokiaブランドの新しいスマートフォンを作っているのは、Nokiaの元従業員が集まって作ったHMD Globalだ。
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