嘉戸社長が考える“新規事業”に必要なこと--「LINEモバイル」が生まれるまで - (page 3)

――マーケティングについても教えて下さい。のんさんを起用し、KIRINJIやフジファブリックの楽曲を使ったテレビCMはとても記憶に残っています。

 私自身はマーケティングのプロではないため、プロモーションは舛田にお願いしました。あくまでも事業として伝えたいものやKPI、予算、成果などを説明するだけで、クリエイティブ領域には口を挟みませんでした。これは大事なポイントです。出澤(LINE代表取締役社長CEOの出澤剛氏)も舛田も任せたことに口を挟みません。新規事業を進める上で、口を挟むとか承認フローがあると進みにくくなるので、「こことここをクリアすればあとは自由にやっていいよ」という形が進みやすいと思います。

 実際にCMをご覧になった方を対象に統計を取ったところ、印象に残ったのはサービス内容という回答でした。CM自体シンプルなため、サービス内容だけ残るのではないでしょうか。逆にLINEモバイルより認知度が高い他社のCMは、ストーリーを追いかけてサービス内容を覚えてもらえないケースが多いように感じます。

――月額基本料が半年間スリーコイン(300円)になるキャンペーンもインパクトがありました。

 これはソフトバンクとともに始めたサービスですが、キャンペーンを実施することが決まったのは6月の中旬頃。発表会自体の実施も開催日のおよそ1週間前に決まったという背景があります。ソフトバンクとの資本提携は4月に完了し、6月いっぱいまでの3カ月は開発や、組織の一体化に費やしました。しかし、サービス開始は7月と決まっていたものの、盛り上げるための施策は頭から抜けていました(笑)。波を作るためにひねり出したのがスリーコインです。この施策で一定の増分を得られれば、コスト的に合致すると考えました。

嘉戸氏(左)とテレビCMに起用されたタレントの「のん」さん(右)
嘉戸氏(左)とテレビCMに起用されたタレントの「のん」さん(右)

 同時に打ち出したキャンペーンとして、月に1度でも測定結果が1Mbpsを下回った場合、ユーザー全員に1Gバイトのデータ容量を翌月プレゼントする「格安スマホ最速チャレンジ」がありますが、1Mbpsを下回った件では、3日間ほどお客様にご迷惑を掛けてしまいました。開発を急いだことと、キャリアからネットワークをお借りする際は帯域卸(たいいきおろし)を事前に決めますが、その数値を決定したのはイベント前です。結果的にご迷惑をおかけしたことは素直にお詫びします。

 振り返ってみると、われわれもソフトバンクもこれだけ急いだのは初めてでしょう。関わっている人数は多いものの、手を動かす人数は30人程度なので、現場はかなりバタバタしていました。結果が出て本当によかったです。

――サービス開始から2年を待たずしてソフトバンクの傘下に入るという決断をしたことについて、改めて思いを聞かせてください。

 ドライな判断だったと思います。LINEモバイルが成長するためのオプションを洗い出すと、LINE単体では不可能でした。そこでローンチ1年後からキャリアと相談を重ねつつ、改善したい部分を説明し、具体的な話を進めた1〜2カ月程度で(ソフトバンクとの提携が)決まりました。

 ただ、当初のカルチャーギャップは相当なものでした。たとえば、LINEは計画を立てて動くよりもスピード感を重視しますが、キャリアは1年単位で動いています。また、LINEでは複数のサービスの中からヒットサービスを生み出そうという考え方ですが、ソフトバンクは事業目標として契約者数の見込みや販路の目標などが決まっています。

 このカルチャーギャップを理解するために1カ月を要しました。現在は、目標や行動の違いをすり合わせていき、お互いを補完する良好な関係を築いています。


――現在のKPIと今後の展望を聞かせてください。

 LINEモバイルのビジネスは、累計契約者数と通信のサブスクリプションモデルなので、何カ月後に黒字化するかを重視しています。販路ごとの細かいKPIもありますが、まずは黒字化でしょうか。

 あとは7月に発表した「マルチキャリア」「格安スマホ最速チャレンジ」「スマホそのまま」と3つのキャンペーンを愚直に進めていきます。今後も顧客に選択肢を提供し、LINEモバイルを使い続けていただける新サービスの提供と、請求書を見て「こんなに安いんだ」「こんな面白いサービスなんだ」というバリューの提供は変わらず続けます。

――最後に新規事業に一番大事なことは何だと思いますか。

 情熱じゃないですか。何が起きてもへこたれないとか、こだわらない素直さとか。新規事業にはいろいろなことが起きて、時にはドブに片足を突っ込むこともあります。変なプライドを持たないことも大事でしょう。自分だけで実現できないことに人の手を借りることを拒んでも未来はありません。成長するためには「情熱と責任感」が必要です。

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