嘉戸社長が考える“新規事業”に必要なこと--「LINEモバイル」が生まれるまで - (page 2)

「LINEモバイル」が生まれるまで

――LINEモバイルという“新規事業”の立ち上げの流れを教えて下さい。

 アプローチは人によって異なりますが、私の場合は事業として重要な数値=パラメーターを洗い出した後、顧客に提供するサービスの理想像を思い描いてパラメーターを動かします。LINEやSNSが使い放題になる「データフリー」というサービスを例にすれば、パラメーターを動かすことで事業全体のPL(損益計算書)が見えてきます。

 また、顧客への価値提供と事業の拡大、コスト試算の調査を繰り返しました。これが計画段階です。実行段階になると人的リソースがゼロだったため、必要な人材や設計開発といった具体的なフェーズに移行しました。

 LINEモバイルの立ち上げ時は、プロジェクトリーダーである私と、通信業界出身2人を含めたわずか3人。もちろんこれだけでは足りませんので、計画に沿って6カ月後を見据えた採用リストを作成し、社内外からリクルーティングを行いました。たとえば、ウェブやアプリのUI設計は基本的に社内から集めた方が上手くいきますが、カスタマーサービスやシステム開発周りは、LINEでも初めて取り組む部分があるため、外部から採用しています。なのでほとんどが新人でした。


 さらに事業フェーズによって必要な人材は異なります。立ち上げ時や安定稼働に乗せるまでなど、この場面で起こりうるリスクに対して対応できるプロフェッショナルな人材が必要となるでしょう。また、後々のリーダー育成も必要になるため、当初は割と年齢が高めの人材を集めました。その後は量産フェーズに入りますので、これまでの通信サービスと異なり、顧客の方向を向いた新しいサービスを作りたいという理念に共感してくれる若い子を集めています。

 その結果として、現在はソフトバンクから出向している方なども含めると約100名まで増えました。事業フェーズに合わせて少しずつ増やしましたが、6カ月前に求人票を出しても採用までには3カ月を要します。加えてカルチャーフィットの問題もあるので、能力が高くても空気感が異なるケースや、LINEの早い動きに対応できない受け身の方は厳しい場合もありました。

 大企業は成すべきことが決まっており、それを埋めるのが仕事になりがちですが、われわれは「埋めるためにあなたは何をしたい?」という意識の変革を求めており、そこを評価基準にも用いてきました。面談の時も「あなたのモチベーションは何ですか?」と質問しています。仕事に限らず、何をしているときが楽しいのかを新卒でも中途でも必ず聞くようにしてきました。

――基本機能や料金プランなどは他の携帯キャリアを参考にしたり、意識したりしたのでしょうか。

 他キャリアは意識しておらず、あくまでも顧客ありきです。そのため、顧客が必要としているか否かといった調査はかなり実施しました。それでも100人中1人の意見を反映させることはコストバランス的に難しく、どこがスイートスポットになるのか判断して決めています。最後は価値観ではないでしょうか。

 恐らく、大手キャリアは顧客1人のニーズも汲み取りながら対応していると思いますが、われわれに同じことができるのか、事業として成り立つのか、顧客ニーズは正当なのかといったことを勘案し、市場とわれわれの顧客を見据えて判断しています。

 たとえば、最初データフリーはLINEだけにしようという話がありました。他のアイデアも“LINE縛り”を考えていましたが、顧客が喜ぶか否かを想像したら疑問が残り、いわゆるLINEとっての競合となるSNSもサービスに含めた次第です。結果として顧客満足度の高いサービスになりました。

LINEのほかTwiterやFacebookの通信量も無料に
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“異なる文化”で進めた開発

――開発者は自社だけで揃えたのでしょうか。

 いいえ。ここまでパートナーと組んだ例はLINEでも初めてではないでしょうか。開発スコープという観点では、LINEと連動する事業は社内開発者というリソースを必要とします。しかし、LINEモバイルはユーザー管理機能や、オーダーシステムなどLINEと切り離したシステムを利用するため、一気に立ち上げるにはパートナーの協力が必要だと判断しました。LINE公式アカウントをLINEモバイル仕様にするのは社内開発者が対応しましたが、それ以外はパートナーと開発した珍しい例だと思います。

 課金システムはLINEのシステムを利用し、外部のパートナーは基幹システムの開発や、MVME(仮想移動体サービス提供者)であるNTTコミュニケーションズとの連携が必要になるため、LINE、LINEモバイル、外部パートナーと3種類の開発者がともに取り組みました。しかし、一般的な開発パートナー企業やSIerですと、ウォーターフォール型で開発しますが、LINEはアジャイル開発のため、文化が異なります。このあたりのパートナー体制は苦労しました。

――その異なる文化の上で、LINEモバイルを開発できた秘訣は。

 直接LINEの担当事業部に、LINEモバイルで実現したいサービスと事業部側のメリットを説明しながら、「一緒に取り組もう」と説得しました。もう1つは、LINEモバイルから一方的にお願いするケース。これは、LINEの開発チームのリソースもありますので、最終的には事業部長に直談判するか、上層部からお願いすると。ですが、これはハレーションを起こしかねません。

 ただ、これらのケースには必ずコツがあって、動きやすいものを提案することが基本です。「考えてください」ではなく、機能要件などの下ごしらえをまとめて、相手が開発に取りかかれる状態を用意することが大事。「やっといて」で相手は絶対動きません。LINEには社員が閲覧可能なWikiに仕様書がまとまっていますので、それを参考にしながら下ごしらえを作成しました。

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