シリコンバレーは元来、労働組合とは無縁だ。ソフトウェア・エンジニアたちは必要が生じれば、仕事や余暇で使っているのと同じコミュニケーション・ツールやコラボレーション・ツールを使いながら、瞬く間に自発的に組織化する。これができれば、労働組合など必要ないのだろう。
勤め先の企業が米軍や米政府と結んだ契約に労働者が抗議して影響力を行使する事例が増えている。なかには、ある程度の成功を収める例も出てきている。今日のシリコンバレーの大手企業は、ビジネス上のあらゆる取引について労働者の評議会やそれに類する存在にお伺いをたてなくてはいけないのか?経営層の人間たちは、ビジネス上の戦略についてスタッフの承認を得る必要があるのだろうか?一方、テック企業と取引する米軍や米政府の各機関は、シリコンバレーのエンジニアらが、自分たちの道義に反するとみなしたプロジェクトを妨害したり、その進行を遅らせたりすることはないものと信じてよいのか?
それともシリコンバレーの企業は自社の技術を使って、従業員の抗議の声が社内に広まる前にサンドボックスに迅速に隔離すべきなのだろうか?
Googleの経営陣は、社内でProject Mavenに対する抗議の声があがった際、必死に止めようとした。Project Mavenは、同社が米国防総省と結んだ契約で、機械学習技術を利用してドローンによる攻撃目標の認知能力を高めようというものだ。
Ben Tarnoff氏がJacobinに寄稿した記事には、この抗議活動がどう組織されたかについての素晴らしい説明が出ている。
Kimさんという仮名で記事に登場するGoogle従業員はTarnoff氏に対して、2017年9月にあった最初の抗議行動は小規模だったが、2018年に入って一気に拡大し、経営陣がProject Mavenを守るための全社集会を開催するに至ったと語っている。
Googleのクラウドビジネスグループの責任者Diane Greene氏は、この集会で従業員からの質問にうまく答えることができなかった。
ある従業員は次のような質問をした。「私はこの種の仕事をしなくても済むように国防省を辞めたのだ。この質疑応答の時間以外に、このプロジェクトを請けるべきでない理由を説明する機会はもらえるのか?」
Google共同創業者のSergey Brin氏は、この質問に対して次のように答えた。「こういう質問をすることを許していること自体が、機会だと思わないのか。そんなことを許す会社などほとんどない」
KimさんはTarnoff氏に次のように述べている。「Brin氏の発言を耳にしたほぼすべてのGoogle従業員が、あの発言を無神経で世間知らずと受け止めた」
その結果、発言を聞いた大勢の従業員が抗議の列に加わった--そして従業員側がびっくりするような歴史的勝利を収める。この勝利は今後大きな影響を及ぼすことになるだろう。
Salesforceの創業者でCEOを務めるMarc Benioff氏は先ごろ、650人のスタッフから寄せられた書簡への回答を迫られた。この書簡は、Salesforceが、不法移民の親子を引き離す措置をとる米税関・国境警備局(US Customs and Border Protection Agency)とビジネスしていることに抗議するものだった。
Benioff氏はこの書簡を送った従業員たちの行動を讃えたものの、Salesforceが同局と取引を中止することはないと述べた。同氏は、その理由として、Salesforceのソフトウェアが人材採用とコミュニケーションの目的にしか使われていないことを挙げている。
Salesforceは元来、社会貢献活動や社員によるボランティア活動で知られている。Benioff氏は小児病院の建設に1億ドルを寄付したこともあり、またシリコンバレーで成功を収めた起業家たちに対しても、富をもっと慈善活動に使うよう呼びかけている。
そんなSalesforceは今後、社員たちの間で増大している力に対して、どう対応するのだろうか?同じ問題にGoogleはどう対応すべきなのだろうか?
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