人工知能(AI)によるイノベーションの創出は、企業の業務効率や生活者のライフスタイルを変革して世の中をより良くすることが期待される。その一方で、AIがこれまで人が担ってきた業務に取って代わり、人の仕事が減るのではないかと不安視する声も生みだしている。人間の能力を超えたAIが世の中に大きな変化を生み出す“シンギュラリティ”の先にどのような社会が待っているのか。その答えは誰にもわからないまま、技術革新は進んでいる。
急速に進むテクノロジは、私たちの働き方にどのような変化をもたらすのか。技術革新は本当に私たちの仕事を奪うのか。トレジャーデータが開催した「TREASURE DATA "PLAZMA" 2018 in Toranomon」において、LinkedIn Japanのカントリーマネージャである村上臣氏が講演した。
村上氏がまず語ったのは、企業社会ですっかり流行語となった「働き方の変革」についてだ。かつて、新卒採用から定年まで同じ会社で勤め上げる終身雇用制が主流だった日本の企業社会では、人々は仕事ではなく会社で就職先を探していた。「“就職”ではなく“就社”。20代の若者に“一生この会社で働く”というコミットを求め、すべてをひとつの会社に捧げるかわりに会社が社員の老後まで面倒を見るという約束を交わしていた」と村上氏は話す。
しかし、現代社会はどうか。企業が倒産や買収、事業譲渡や経営統合などによって目まぐるしく変化しており、いま順調な企業や産業が5年後も同じように順調かどうかは誰にもわからない。「来年のこと、再来年のことがわからないという不確実性の高い世の中で生きている。今まで会社と社員の間で交わされてきた“約束”が守られなくなってきている」(村上氏)。
こうした企業社会に変化が次々に生まれる中で、企業自身はその資本力などによって形を変えながら生き抜いていけるかもしれない。しかし村上氏は「個人はこうした不確実性の中で生き抜いていけるのか」と指摘する。「これまで、自分自身のキャリアや人生は会社に任せていた。社員のスキルアップやキャリアアップも会社が考えてきた。しかし、これからの時代は会社に任せていたものを自分自身の手に取り戻し、自分のキャリアを自分自身でマネジメントする必要がある」(村上氏)。
つまり、会社に任せていればキャリアの階段をのぼり生きていける時代から、人生のキャリアをどのように生きていくのか、就職した会社からどのようなスキルや経験を吸収するのか、日々の仕事の中で何を学び周囲からどのような評価を得るのかを、自分自身で真剣に考える時代へと変化したのだ。村上氏は、働き方改革を“これまで企業任せにしてきたキャリア形成を自分の手に取り戻すこと”と定義しているが、これからは“レールの引かれた人生”ではなく“自分自身で道を切り拓く人生”が求められるのである。
次に村上氏が語ったのは、昨今の技術革新についてだ。テクノロジの進化は「情報革命」と言われる第4次産業革命を生み出し、世の中の産業を大きく変えている。
かつての第3次産業革命は、蒸気機関から内燃機関(エンジン)が誕生したことによる生産性の革新が生まれ、高性能なエンジンの開発やオイルやガスといった燃料資源の開発、機械工学の進歩を進めた。しかし、第4次産業革命ではエンジンではなくコンピュータが産業の中心にあり、データや電子工学、コンピュータサイエンスが重視され、リアルとバーチャルを融合したMixed Realityという新しい世界を生み出した。
こうした変化を、村上氏はかつてウェブブラウザ「Netscape」を生み出したマーク・アンドリーセンの言葉を引用し「Software is still eating the world(ソフトウェアが世界を覆い尽くしている)」と表現した。
「いまiPhoneで出来ることを1980年代にしようとすれば、10以上のデバイスをカバンの中に入れなければならないだろう。動画は恐らく見ることはできない。電話帳もノートも紙で持ち歩き、カバンはパンパンになるかもしれないが、今はそれがすべて手のひらにある。しかも、常時ネットにつながり、クラウド上の何テラバイトものデータにアクセスできる。誰もが手のひらにスーパーコンピュータを持っている状態だ。まさに、私たちはソフトウェアによって世界が変わっていく真っ只中にいる」(村上氏)。
村上氏は、この第4次産業革命について「短い期間に爆発的に起きるものだ。今から10数年の間に爆発的な社会の変革が生まれる。AIやマシンラーニングなどの技術要素によって、賢くなったAIが囲碁で相手を打ち負かすといった、今までの歴史から見てあり得なかったようなものが実現する」と説明。
そして、AIやマシンラーニングが急速に発展している背景について「ネット上に蓄積される膨大なデータを収集しコンピュータが学習できるようになった。AIは理論的には1960年代から研究されてきたが、それを実現できるコンピューティング環境がいま実現している」と説明した。「変革はいま始まった。これからの10年で見たことのないような世界が広がるのではないか」(村上氏)。
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