昨今、学校現場におけるICT環境の整備が進み、授業でもPCやタブレット端末を使ったカリキュラムが導入されるようになってきた。2020年に必修化されるプログラミング教育とともに注目されるようになった「Scratch(スクラッチ)」などはその代表例だろう。
一方で、授業の内容理解をさらに深める副教材という位置づけでは、プログラミング教育が注目される以前からさまざまな分野でソリューションが生み出され、学校単位での導入が進んでいる。グーグルが推進している教育機関向けプログラム「Google Earth Education」もそのひとつだ。同社でGoogle Earth Outreachのプログラムマネージャーを務める松岡朝美氏に、「Google Earth」を活用した教育支援の取り組みについて聞いた。
――まず、Google Earth Educationを中心にGoogleの教育支援に対する考えについて教えてください。
Google Earthに関しては、小さいお子様にも“地球がどうなっているのか”という好奇心を育んで欲しいと思っています。いま、環境を巡るさまざまな問題や、持続可能な社会を実現するという課題が世の中にありますよね。その中で、どのような教育をすればこうした課題を解決しようという思考が養われるのかと考えたときに、Google Earthを通じて丸い地球を体験してもらうことで、「環境課題は日本だけで解決できるものではなく地球全体のものなんだ」という、地理空間思考を学校教育の段階から養ってもらえればと考えています。
――Google Earth Educationはいつごろから提供しているのでしょうか。
教育におけるGoogle Earthの活用はリリース時から行われており、発展的にGoogle Earth Educationにつながっていきました。日本では、2017年にGoogle Earth Educationの専用ウェブサイトをオープンし、教育関係者に授業プランなどの情報を提供しています。
――現在、どのような体制で運営しているのでしょうか。
米国にはGoogle Earth Outreachの教育分野に特化したチームがおり、そこと連携してコンテンツを開発しているほか、日本国内でも社内のさまざまな部門や外部の教育関係者と連携しながら進めています。また、地図関連サービスを使っていただいている国内外の教育関係者からも、Google Earthの活用法に関するナレッジを寄せていただいているので、それをウェブサイト上で公開したりもしています。
――授業プランにはどのようなものがあるのでしょう。
Google Earthが2017年のアップデートで提供を開始したインタラクティブガイドツアー「Voyager」を活用したコンテンツが面白いと思います。
たとえば、「地球でめぐる太陽系の旅」と題したVoyagerは、日本でGoogle Earth Educationのパートナーになっていただいた日本科学未来館が監修したもので、「地球は特殊な惑星ではなく大きな太陽系の中にある惑星のひとつの星なんだ」ということを、未来館ならではの視点で紹介しているコンテンツです。阿蘇山のカルデラを紹介する部分では、金星など他の星にも火山が存在していることを紹介したり、北欧のオーロラを紹介しながら木星のオーロラは地球を丸ごと包んでしまうほど巨大であることを紹介するなど、地球と他の惑星との共通点に触れながら宇宙の謎を解き明かしていくという内容になっています。
こうしたコンテンツに触れながら、子どもたちに「わぁ!すごい!」という驚きをたくさんしてもらうことで、もっと知りたいという好奇心を抱いてもらい、自分で調べて発見したことを用意されたさまざまなツールによって表現して友だちと共有することで、子どもたちの中に“知の循環”が生み出せるのではないかと考えています。
一方、学校関係者が作成した授業プランも一部公開しています。たとえば、東京都港区の広尾学園高等学校では、震災が起こった際の避難所までの経路を、Google Earth、Googleストリートビュー、自治体が公開している広域避難所などのオープンデータを活用して作成し、授業に活用しています。また、埼玉県教育委員会では、世界遺産である富士山をGoogle Earthを使って観察しながら、環境保全という課題解決に向けた授業を英語学習の一環で行っていたりと、地理教育の枠を超えた活用も行われています。こうした授業プランは、各学校で独自に作られています。
――授業プランは簡単に作ることができるのでしょうか。手間やコストはかかるのでしょうか。
教員によって異なる部分が大きいと思います。国が定める学習指導要領に沿った形でどのような授業を企画し、その中でGoogle Earthをどのように活用していくかという着想の部分は、教員によってすぐにアイデアが生まれる場合もあれば、時間がかかる場合もあると思います。
面白いアイデアとして、小学校1年生の「くじらぐも」(光村図書)という教材を扱った国語の授業では、空に浮かぶ「くじらぐも」に届くように大きな声で朗読することを課題にしているのですが、この「くじらぐも」の視点を体験するためにGoogle Earthを活用しています。子どもたちは学校の校庭で雲に届けるような大きな声で朗読するのですが、雲から自分たちがどのように見えているのかを体験することで、想像力を膨らませるという狙いがあります。実際、この体験をしたことで子どもたちは、“ちょっとの声では雲には声が届かない”ことを実感し、大きな声で朗読するようになったそうです。
――Google Earth Educationは、どれくらいの学校で活用されているのでしょうか。利用している学校にはどのような傾向がありますか。
Google Earth Educationはオープンなプログラムなので、具体的な導入校の数については把握していません。ただ、活用事例について声を寄せていただくことはあり、その事例の一部がウェブサイトで公開されています。導入学校の傾向としては、ネット環境や生徒のネットリテラシーが整ってきている高校のほうが多い印象がありますね。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス