「1カ月間Facebookの使用を禁止する」――現地時間5月29日、パプアニューギニアのSam Basil通信相のコメントとして、地元メディア「Post-Courier」が伝えたニュースは世界を駆け巡った。しかし、5月31日、Basil通信相自身がニュースの不正確さを指摘。発言の有無、そして真偽が問われる事態に発展している。FacebookなどのSNSが最も正確な政情を伝えるお国柄とあって、一時は騒然とした。
1カ月間のFacebookの使用禁止は、Post-Courier紙記者によるでっちあげというのが、Basil通信相の言い分だ。一方で、Post-Courier側は間違った報道はしていないと主張。通信相がコメントした時の状況を説明している。4月に発表されたSNSに関する声明の進捗状況を、別件の会見が行われた後に尋ねられ、通信相は「1カ月ほど、Facebookを使用禁止にすることになるだろう」と言ったというのだ。
「記者を前に話したことがすべて記事になることぐらい、大臣のような政府の要職に就く人はわかっているはず。にも関わらず、同通信相は今回のような重要コメントを、口止めもせずにおおっぴらに口にした。それをわれわれが記事にするのは当たり前」と、同紙はコメントの掲載を正当化している。
4月の声明には、FacebookなどのSNSの利用にあたっては、国民のプライバシーの保護が必要であるという政府の方針が示されている。これは、Facebookの個人データが、政治・選挙関連データ分析企業のCambridge Analytica(ケンブリッジ・アナリティカ)に不正利用された事件を受けてのことだ。
声明は、同通信相が方針に基づき、関連部署に調査の指示を行ったという内容だったとニュージーランドの公共放送局「Radio NZ」が、5月31日付の記事で今回の騒動の背景として報じている。Facebookの長所と短所や、SNS利用にあたり、国民がさらされる危険性、利用者がSNSに費やす時間と生産性、サイバーセキュリティ対策とサイバー犯罪の問題などが、調査項目には含まれていた。
Radio NZは同時に、4月の声明には「Facebookの利用を1カ月にわたって禁止する」という内容は含まれていなかったことを確認している。政府に近い筋の情報によれば、いったんは禁止について話し合った経緯があるに留まるという。
5月中旬に、Peter O’Neill首相は「政府がFacebookを永久禁止することはないだろうが、Facebookにはフェイクニュースや誤った情報の拡散に対し、より責任を持ってほしい」とコメントしている。
国内のビジネスや観光、文化関連のニュースを集めたウェブサイト「Skerah」の2016年の記事によれば、パプアニューギニアで1カ月間にFacebookを利用する人の平均人数は60~70万人。ちなみに総人口は約800万人。他国同様、FacebookはSNSの中で圧倒的な人気を誇る。しかし、同国民にとってのFacebookは、一般的な「友人とつながるためのツール」としてより、「政治・政権に関する正しい情報の交換を行うためのツール」として存在している。
というのも、国内の一般メディアは信用できないからだ。米国国務省によるヒューマン・ライツ・レポートの2017年版によれば、パプアニューギニアでは言論の自由は概ね尊重されているとされている。しかし、メディア企業や関係者は嫌がらせを受けたり、脅迫されたり、政府に好意的な記事を書くよう、わいろを渡されたりするのみならず、暴力をふるわれることもある。そのため、一般的なメディアに掲載される政府に関する情報はゆがめられて発信されることが多いのだという。
オーストラリアのニューサウスウェールズ大学法律学部の博士研究員であり、インターネットにおける政治に詳しいSarah Logan氏は、パプアニューギニアにおけるソーシャル・メディアには2つの役割があると言い切る。1つは政治批判を促すこと、そしてもう1つは市民の政治参加だ。前出のヒューマン・ライツ・レポートにも、SNSやブログが、政府の権利の乱用や、政治腐敗について話し合う場であり、不正の証拠を示す場となっていることが記されている。
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