ただし、ヤング氏はAIやIoT、プログラミングといった最新技術を使うこと自体を“テクノロジ活用”とは考えていない。「生徒は環境保護のことを考えて、リサイクル素材などを使ってドレスを作ることもあるが、私たちはこれも1つのテクノロジだと思っている。ITはあくまでもツールであって、何を実現したいのか、どんなアイデアを具現化したいのかという思いが大切だ」(ヤング氏)。
また、生徒自身がそういったアイデアを見つけるためには、ただ教室の座学でノートを取るのではなく、自ら学びの機会を作ったり、デザインをしたり、質問をしたりすることに、より多くの時間を割くべきだと強調した。
ニュージーランドで最も大きな経済都市であるオークランドにあるマウント・アルバート・グラマー・スクールには、9~13年生の生徒が約2800人通っている。同校では、生徒の将来の方向性にあわせたカリキュラムを提供しており、生徒自身で責任を持って学ぶ、問題解決をする、忍耐力をつけるといった教育に重きを置いているという。
日本とは評価の方法も異なる。日本では答えを暗記して間違えると点数が減る“減点方式”のテストが一般的だが、同校では答えの正否よりも、自分の考えを記述式で書かせ、その内容によって評価する“加点方式”のテストを採用しているという。日本人の留学生も約10人ほど通っているが、ある生徒は英語に苦労しながらも、「しっかり自分の意見を書かないといけないので、自分がいろいろな物事についてどう思っているのかを日本にいた頃より考えるようになった」と話す。
同校の生徒は、近くにあるユニテック工科大学のキャンパスで、進学に向けたコンピュータサイエンスのクラスを受けることもできるという。また学内には、大きな農場も併設されている。日本では高齢化にともない離農者が後を絶たないが、それは酪農大国であるニュージーランドでも同じだという。そのため、テクノロジを一次産業に応用するための取り組みを進めているそうだ。たとえば、IoTによる蜂の巣の健康状態のモニタリングや、ロボットによる牛の搾乳など。2020年に新設する校舎にこれらのテクノロジを正式導入する予定で、すでに授業は始まっているという。
こうした個人の意見を尊重し、自由に学ばせるニュージーランドの教育の基礎を作っているのが同国の幼児教育だ。ニュージーランドでは1996年に、子どもの個性を伸ばすことを重視する教育カリキュラム「テファリキ」を打ち出した。
テファリキは、(1)子ども自身に学ぶ力をつけさせるようサポートする「エンパワーメント」、(2)全人的な成長である「ホリスティックデベロップメント」、(3)家族やコミュニティの中で育つ「ファミリーアンドコミュニティ」、(4)さまざまな人や物事の関係性を学ぶ「リレーションシップ」という4つの原則に基づいており、すべての乳幼児教育施設 (幼稚園)がこの方針に則って運営しているという。
今回の取材では、海や山に囲まれた自然豊かな街であるフィティアンガにある乳幼児教育施設のカウリ・ラーナーズを訪れた。中に入ると、子どもたちが部屋中を走り回ったり、おもちゃや粘土で物作りを楽しんだりしている。先生に目を向けると、自由に遊ぶ子どもを見守りながら必要に応じて近寄り、おもちゃの遊び方や道具の使い方などを教えていた。
カウリ・ラーナーズのマネージャーであるマキシーン・マクロビー氏は、「この施設では、お互いをリスペクトし、思いやる気持ちを育めるよう、それぞれの子どもが一番伸びる形でサポートしている。たとえば、子どもが鼻水を垂らしていても勝手に拭いたりせず、先生から本人に拭いてもいいか断りを入れる。こうした大人と同じように個人を尊重した教育を続けることで、子どもたちは従来よりも交流を好むようになった」と話す。
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