――「街づくり=人々の暮らしづくり」というテーマにとって、コネクテッドカーが生み出す生活者のインサイトはどのような価値を持っているのでしょうか。
川路氏:人々の暮らしが変わるということは世の中の規範や習慣が変わるということなので、コネクテッドカーが生み出すデータを活用するということは、社会規範とのバランスを取る必要があると思います。その上で、未来への選択肢を広げる可能性、ライフスタイルのなかで取り入れられるオプションを増やす可能性は大いに秘めていると思います。
ただ、街づくりのあらゆる側面をデータに依存してしまうと、ただ合理化されたつまらない街になってしまうかもしれません。そういう意味では、これからデータ化による合理化、効率化が進んでいく社会のなかで、どのような意図をもって街を作りたいのかというデベロッパーの意思がさらに重要になっていくと感じました。
たとえば、信号は交通量のない深夜であればすべて青にしておけば交通はスムーズになる。ただ、それではスピードの出しすぎで事故のリスクが高まるので非効率であっても時々赤信号で停まってもらわなければなりません。大事なのは、街や社会を作る側がどういう意図を込めるのかという人による部分だと感じます。
――もうひとつ挙げると、未来の街づくりのテーマに人口の都市集中による交通渋滞や駐車場不足といった課題が挙がっています。コネクテッドカーの普及拡大によってそうした課題にはどのような影響が考えられるでしょうか。
北川氏:実は、世の中にある自動車の稼働率を見ると、97%が止まっていると言われています。週末に2~3時間乗る程度というケースでは、それ以外の時間は基本的に駐車場に止まっているだけですよね。自動運転技術やテレメトリクスによって社会における車の台数を最適化すると、世の中の車は半分で足りる社会になるかもしれません。すると、駐車場のスペースも大きく削減できて街の姿そのものが大きく変わるかもしれません。
川路氏:97%という数字は改めて聞くとすごい数字ですよね。確かに、この数十年のモータリゼーションによって日本の宅地に駐車場が占める割合は異常と言えるレベルにまで高まりました。首都圏3000万人に対して1000万台の自動車があったと仮定すると、1台あたりの駐車スペースが10平方メートルの場合に必要な土地の広さはとんでもないものになるわけです。これだけ地価の高い東京で、97%動かないもののためにそれだけの土地を用意しなければならないというのは、非常にもったいない話だと思います。
北川氏:もったいないですよね。それが半分になるだけでも大きいと思います。
川路氏:この話は資産運用にも関係してくるかもしれませんね。たとえば、マンションで駐車場が減ると住民にとっての資産が増えるので、その土地を売却して住民でシェアすることも可能かもしれません。カーシェアリングやコネクテッドカーによって住民でシェアできるモビリティそのものをマンションのソフトとして組み込んでしまえばいいわけです。莫大なアセット=土地が世の中に生み出されるというのは、経済に与えるインパクトも大きいのではないでしょうか。
北川氏:面白いですね。モビリティの実態を捉えて街や暮らしを最適化するためのヒントを得るという意味では、コネクテッドカーは非常に有用なのではないでしょうか。ある法人の顧客では保有している社用車の稼働率を把握するためにテレメトリクスを導入しているケースもあります。稼働していない社用車を削減することで、運用コストや駐車スペースの削減につながっていくことが期待できるわけです。
川路氏:無駄なリソースを減らすことで、どんどん余裕を生み出して別の価値を作り出すことができるのはないでしょうか。
――このテーマは、デベロッパーにとって非常にチャレンジングですよね。車がなくても良い暮らしを作り、その駐車場スペースを別の形で暮らしを充実させることに活用するというアプローチが可能になります。
川路氏:そうですね。駐車場の建設に必要なコストも決して少なくないので、そこを大きく削減できると思います。
北川氏:住宅にモビリティをサービスとしてビルトインして、ライフスタイルそのものを提供できれば面白いと思います。最適化された台数のコネクテッドカーを用意して住民にシェアしてもらう。公共交通やシェアバイクなども組み込んで移動手段の選択肢を自前で用意する必要なく、自由に選べる時代。そうしたライフスタイルの構築を不動産会社さんと協業して作ってみたいです。
川路氏:そのアイデアはいいですね。未来に向けた可能性は広がっていると思います。たとえば、住宅を作る三井不動産と自動車の供給が可能な大手企業、そしてデータやテクノロジを持つベンチャー企業が高い意識で協業して未来を作るという構図が生まれれば、今まではアセットだけではつながらなかったような面白い取り組みが見えてくると思います。
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