クルマを通じてさまざまなデータを収集・分析することで新しい価値やサービスを生み出すコネクテッドカーは、次世代モビリティの重要なテーマのひとつとして注目されている。コネクテッドカーの発展は社会にどのような価値を生み出し、われわれの暮らしや街づくりをどのように変えていくのだろうか。スマートドライブの代表取締役である北川烈氏と、三井不動産でワークスタイリンググループを手がける川路武氏が対談した。
スマートドライブは、シガーソケット挿入型端末を初期搭載した車を毎月定額で利用できる、個人向けカーリースサービス「SmartDrive Cars」を2月に発表。同社によると、コネクテッドカーを一般向けにリースする国内では初めてのサービスとなるという。毎月の利用料には、各種自動車税、自賠責保険料、車検・メンテナンス費用が含まれており、利用者には安全運転でポイントを貯められる機能を提供。また、走行履歴、自動車保険情報、緊急連絡先、車検やメンテナンスのスケジュールなどの情報を、スマホでいつでも閲覧できるメニューなどを提供する。
一方、三井不動産は2017年4月に、法人向けシェアオフィスを各地に展開する「WORKSTYLINGプロジェクト」を開始。都心や郊外にシェアオフィス拠点を設置し、大手企業を中心に多くの法人会員の従業員が活用しているという。事業の責任者を務める川路氏はこれまで、数々の街づくりプロジェクトやベンチャー企業向けのコワーキングスペース「31VENTURES Clipニホンバシ」といった新規事業の立ち上げに従事。千葉県柏市の柏の葉エリアの開発などにも携わったという。
今回の対談はスマートドライブのデバイスを搭載した車に乗車して実施した。
――まずはスマートドライブが手がけているビジネスについて教えてください。
北川氏:スマートドライブは、車のシガーソケットや整備用ポートに取り付けられるデータ計測用デバイスを開発しています。このデバイスによって、車の動きやドライビングに関するデータを最大50種類ほど収集でき、そのデータを解析することで、さまざまな価値やサービスを生み出すのです。
具体的には、法人向けにトラックなどの車両管理や運行状況の把握、配車の効率化。また保険会社と連携して、契約者の安全運転診断による保険等級の査定などといった形で活用しています。これにより、導入企業のロジスティックス効率や輸送コストの改善、もっと言うとそもそも事故自体を減らしたりできるようになります。現在、弊社のデバイスは約2万台に搭載されていて、2018年は10万台を目指したいと考えています。また、渋滞予測など多くのデータが必要になるレベルまで拡大するには、30万台程度の導入を目標にしたいと考えています。
川路氏:30万台くらいのボリュームで足りるのですね。予想していたよりも少なかったです。メーカーもコネクテッドカーの領域には積極的ですが、競合になるのでしょうか。
北川氏:そうですね。自動車メーカーは競合という側面もあるのですが、彼らは自社製品の特定の車種にしかデータを収集する車載器を搭載できていないため、データ収集できる車の台数を急速に増やすのが難しいという課題があると思います。その点、スマートドライブのデバイスは、メーカーや車種を問わずに手軽に搭載できるので、データとして有効な台数を確保できる点で有利です。われわれとしては、車両管理や保険サービスとの連携などにとどまらず、街づくりへの活用なども含めて新しいサービスを多く作りたい。そうすることで、車メーカーからデータをお預かりして、統合的な解析・利活用するなど、さまざまな協業もできると考えています。
――最近では、個人向けに月額費用でコネクテッドカーを提供する「SmartDrive Cars」をリリースしました。
北川氏:私たちはモビリティのデータを集める技術を開発していますが、そのデータを突き詰めていくと将来の事故リスク予測や長期的な車の価値予測などにも活用できると考えています。テレマティクスを生かして、使った分だけ費用を負担するという車の利用スタイルが合理的だと考え、個人向けサービスのSmartDrive Carsをリリースしました。具体的には、データ計測用のデバイスを搭載した自動車を月額3万円から(保険、諸税込)でリースする形になり、データ分析の結果、安全運転していた契約者には利用料金を割引くようなサービスになります。
川路氏:使った分だけ払う。しかも、安全運転で安くなるという自動車の使い方は新しいですね。
北川氏:三井不動産のWORKSTYLINGも使った分だけ費用を払う仕組みだと思いますが、それだけを見ると他社でも同様のサービスがあるわけですよね。ただ、WORKSTYLINGでは利用者がどのようなコミュニティを生み出しているのか、どのような利活用をしているのかをデータで可視化して、サービス拡充したいという狙いが大きなポイントだと思います。
私たちも、月額費用で使った分だけ払うというだけではなく、そこから生まれるデータを活用して安全運転をすればお得になったり、データを第三者に提供することで利用者の費用負担が減ったりするような仕組みを目指したいと思います。“車を所有する”、“車をレンタルする”というのとは別の軸で、“クルマ生活のクオリティを上げる”という観点でサービスを生み出していきたいですね。
川路氏:ビジネスから生まれるデータに対する期待は私たちも大きいですね。WORKSTYLINGの利用者には利用IDとして、スマートフォンを利用したウェブアプリでチェックインをしていただいているのですが、運用を開始すると予想していなかった利用者のサービス活用状況データが集まり始めて、それを分析して活用すれば今までとは全く違うビジネスが生み出せるのではないかという可能性が見えてきています。
サービス開始当初はあまりなかったのですが、サービスを開始して改めてデバイスでデータを収集してクラウド上で管理していくことの重要性を実感しています。日本の大手企業の中には、こういった可能性を理解していても実感している人は少ないのではないでしょうか。
――具体的には、どのような形でデータを収集するのでしょうか。
北川氏:デバイスはシガーソケットに挿せる小型のものを用意しています。車のエンジンをかけると自動的にデバイスの電源が入り、そこからデータの計測を開始します。デバイスの中にはGPSや6軸の加速度センサが内蔵されており、走行したルートの記録、急加減速の回数の記録、車に掛かったGフォース(加速度)の変化と事故リスクのスコア化などをしています。このGフォースの変化と事故リスクの関係は、提携する保険会社と共同で分析してスコアのアルゴリズムを開発しています。
こうしたデータにより、リスクの低い運転をしたらポイントが貯まってサービスの費用がお得になったり、買い物先でポイントがたくさんもらえたり、ガソリンや高速道路料金が安くなったりといった、安全運転を促進するような運転者のメリットが生み出せればと考えています。
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