10歳のBlaine Baxter君は、2017年にゴーカートの事故で腕を負傷した。その後、Blaine君は病院で毎日服を着替えるとき、痛みに激しい不安を抱くようになったため、鎮静剤を投与しなければならなくなった。
それから、仮想現実(VR)が登場した。
Blaine君がスタンフォード大学ルシール・パッカード小児病院に入院してから2週間後、疼痛管理の専門家チームはBlaine君に対して、サムスンの「Gear VR」を使ってゲームをプレイしてみることを勧めた。それらのゲームはとてもうまくBlaine君の気をそらしてくれため、鎮静剤を使う必要がなくなった。Blaine君はこれまで、医師が部屋に近づいてくるたびに怖がっていたが、それからは喜んで、VRで深海冒険に出発したり、宇宙空間でハンバーガーを撃ち落としたりするようになった。
Blaine君の母親のTamara Baxterさんは、次のように語る。「すごい変わりようだった。息子はその時、多くの薬を投与されていた。VRのおかげで、薬が1つ少なくなった」
VRを利用するパッカード小児病院の取り組みをけん引するのは、同病院の「CHARIOT」プログラムだ。CHARIOTは「Childhood Anxiety Reduction through Innovation and Technology」(技術革新とテクノロジを通じた小児の不安軽減)の略語である。同チームは開発者と協力して、「Pebbles the Penguin」や「Spaceburgers」といったゲームを作り出した。前者は氷上を滑るペンギンが小石などを集めていくゲームで、後者はプレーヤーがハンバーガーを含むさまざまな飛行物体に視線を合わせて撃ち落としていくゲームだ。
VRはテクノロジ分野における次の大きなトレンドの1つであり、コミュニケーションをとったり、ビデオゲームや映画などを体験したりする方法を変える可能性を秘めているとして、大々的に宣伝されてきた。しかし、Facebookやサムスン、Googleといった大手企業がVRを支持しているにもかかわらず、まだ一般の人々に大規模には普及していない。VRは概してギミックとみなされている。
だが、それは医療の世界には当てはまらない。医療では、人々が恐怖症や不安障害を克服できるよう支援するために、10年以上前からVRが利用されている。より洗練された低価格な製品の登場により、医学生や助産師の訓練から脳卒中患者の運動機能回復の支援まで、より多くの医療環境でVRを導入することが、以前より容易になった。
現在では、より多くの研究者や病院が、着替えや点滴の取り付け、硬膜外麻酔の投与の際に、VRによって不安や痛みの知覚を軽減できることに気付き始めている。処置の前後に患者をリラックスさせる効果もある。
ロサンゼルスにあるシーダーズ・サイナイ病院が2017年3月に発表した入院患者100人を対象とする調査では、患者50人にVRヘッドセットで心を落ち着かせる動画を見せたところ、患者が訴える痛みの評価指標が24%減少した。他の患者50人には、標準的な2Dでリラックスできる自然風景の動画を近くに置いたスクリーンで見せたが、痛みの指標は13.2%しか減少しなかった。
同病院でヘルスサービスリサーチ担当ディレクターを務めるBrennan Spiegel氏によると、VRが痛みの軽減にこれほど効果的である理由は、彼らにもいまだによく分からないという。
Spiegel氏は、「脳は非常に複雑なので、仮想現実のようなものが効果を発揮している仕組みを正確に突き止めるのは難しい」と話す。だが、単純に気をそらすことが効果を発揮していると考えられる。つまり、脳はVRからの信号を処理するのに手一杯で、痛みなどのほかの信号を処理する余裕がない、ということだろう。
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