では、林教授はこの構想をどのように実現しようとしているのだろうか。ひとつの課題は、平塚沖総合実験タワーをはじめ各観測拠点が収集する観測データをどのように取り扱うかというものだ。
林教授によると、これまでは観測拠点で収集されたデータはその観測拠点にとどめておき、リアルタイムに活用することは難しかったのだという。また、海面観測は10年単位の長期的な実施によるデータの蓄積も今後の海洋研究や防災研究に重要な意味を持つが、データのフォーマットや保存方法は時代の経過とともに大きく変化し、過去のデータはアナログ管理されているものも多いのだという。「時代とともにデータの姿や管理方針が変化してしまうと長期的な観測ができず、観測の持続可能性を担保できない」(林教授)。
つまり、収集したデータをリアルタイムに活用できること、そして時代の変化に影響を受けず長期的にデータを蓄積・管理できる汎用的な基盤を整備すること。この2つの課題を解決するために、林教授はマイクロソフトのクラウド基盤である「Azure」を導入して、データ管理をクラウド化したのだという。「クラウドの導入によって、データ管理の手間を省き、複数観測地点のデータを同時に取得して統合管理することを目指した」(林教授)。
Azureの導入にあたっては、林教授の研究を支援している青葉電子の代表取締役である藤原滋氏が参画。藤原氏によると、Azureを選定した理由については第一にサービスそのものの持続可能性に対する期待が挙げられるという。「長期的な海面観測において、10年後に使用しているサービスがなくなっていては困る。ソフトウェア専業の会社が運営し、将来的なサービスの持続性が見通せるクラウドを使う必要があった」(藤原氏)。
この持続可能性は、今回のプロジェクトにおいても重要なキーワードであり、それは具体的なAzureの活用方法にも反映されている。
藤原氏は Azureを採用した理由について「データのバックアップや保守管理の手間やコストを考えた場合、プライベートクラウドよりもサービスサイドで保守管理が担保されているパブリッククラウドを選んだ」と語る。
利用者が自由にシステム構築することができるプライベートクラウドと比較して、パブリッククラウドはシステム環境の自由度に制約があり、利用者側がある程度Azureに合わせていく必要がある。しかし藤原氏は「なるべく新しいものを個別具体的に作り込むのではなく、すでにあるシステムに合わせてデータ管理の環境を作るようにした」と説明。ここでも、システムの持続可能性を担保するために、あえてシンプルなシステムを構築することで、長期的な運用を可能にしたのだという。
この点に関しては、林教授も「そのときの技術トレンドに基づいて個別にプログラムを作ってしまうと、今後の運用で観測機器の仕様が変更された場合など将来の変化に対応するのが困難になってしまう。私たちはシステムの専門家でもなければそれが専業でもないので、継続的なシステムのアップデートは難しい。その負担を軽減するために、汎用性が担保できる仕組みだけを作って、できるだけシンプルに手間のかからない形でのシステム構築を目指した」と語っている。
具体的には、Azureの数多くある機能の中でも、観測機器を監視、管理する「IoT Hub」、データ管理をするための「Table Storage」「Blob Storage」「Data Lake」といった機能に絞って活用しているほか、クラウド上のタスクを自動化する「Azure Automation」のうち、Webhook 機能を活用してSlackと連携し、データ観測に異常が生じた際に即座に通知が届く仕組みを整備しているのだという。
林教授は、「自分たちでクラウドに相当する環境を構築することも可能だが、そこに投入できる予算はない。一方、クラウドであれば観測機器の制御やデータのモニタリングを現在のキャッシュフローで維持できる」とクラウドのコストパフォーマンスと管理の効率化を評価。また藤原氏は「今後は、データの共有が容易なパブリッククラウドの特性を活かして、データの利用者に平時のデータ取得の仕組みを簡単に提供できるような環境を構築したい」と今後の構想を語った。
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