IoT(Internet of Things)によるセンシング技術と人工知能をはじめとするデータ解析技術の進歩によって、世の中にあるさまざまなビッグデータを活用して価値を生み出すことに、新たなビジネスへの期待が高まっている。しかし、世の中の環境や事象を観測、計測してデータが生み出されるIoTの突端、つまりさまざまな機器と知見によって行われるセンシングの現場にどのような課題があるのかについては、知られていないことが多い。
このセンシング技術を研究する最先端ではどのような課題意識を持ち、そしてどのような将来を描いているのだろうか。東京大学 生産技術研究所 海中観測実装工学研究センターの教授である林昌奎氏に話を伺った。
林教授は、リモートセンシングによる海面観測と海洋再生可能エネルギー利用に関する研究を専門とする。つまり、水深の深さや海流の速さなど海上のさまざまな環境条件に応じて、そしてその観測のさまざまな目的に応じて、どのような観測機器を使いどのような観測方法で海の状況を観測するべきかを研究している。観測されたデータは、海上状況の把握・分析や自治体などの防災政策などに活用されているという。観測地点は、神奈川県平塚市の相模湾に設置されている「平塚沖総合実験タワー」をはじめ、北海道、宮城県、岩手県などに及ぶ。
中でも、林教授が特に力を入れているのが、陸地に近い沿岸部の海面観測データのリアルタイムな収集と利活用に関する研究だ。例えば、観測地点の地元漁師が海の状態をリアルタイムに把握して漁業に活かしたり、湘南でサーフィンをしたいサーファーが波の状態をリアルタイムに把握したりするなど、海の常時観測データを私たちの身近な場面に役立てるための環境づくりを進めているという。
「海のリアルタイム観測が私たちの生活や仕事に役立つ場合は多い。例えば、台風など気象状態の悪いときに今の海の状態、波の状態がどうなっているのかを知るために、わざわざ危険な海に見に行く必要はなく、観測したデータを活用すれば正確に状況を理解することができる。天気予報をスマホでチェックするように、海の状態を簡単に把握できる方法を確立したい」(林教授)。
一般的に、こうした環境センシングはデータを継続的に蓄積し、それを解析することで環境の理解や今後の予測、防災などに役立てる場合が多い。しかし林教授は、この環境センシングをリアルタイムに私たちの日々の生活にも役立てようとしているのだ。
「私たちが海面観測を研究する目的は、過去のデータを蓄積することだけではなくリアルタイムに観測されたデータを活用していくこと。日本全国に複数の観測拠点を展開してデータを計測し、全ての人の生活圏に近い海の状況を把握できるようにしたい」(林教授)。
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