「モバイル野郎」こと村上臣氏が10月末でヤフーを退職した。同氏は、モバイルに乗り遅れていたヤフーを“スマホファースト”に牽引すべく、CMO(Chief Mobile Officer)として陣頭指揮をとった人物である。
40という境目の歳にヤフーを退職した村上氏が次に進んだのは、マイクロソフトに約3兆円で買収されたビジネスSNS「LinkedIn」の日本代表だ。同社は、世界最大のビジネスSNSとして各国で高いシェアを持つものの、5年前に上陸した日本での存在感は今ひとつ。
現在、日本でビジネスSNSとして広く利用されているのはFacebookだろう。ただし、日本国外ではプライベート向けのSNSとしての色が強く、国内では、プライベートとビジネスの人間関係が混ざってしまっているケースが多い。働き方改革の掛け声かかる、日本でのLinkedIn再出発を託された村上氏に、日本代表に就任した経緯と今後の展開を聞いた。
――ヤフーで「モバイル野郎」として2012年よりCMOに就任し、スマートフォンシフトを強力に推進してきました。今回、LinkedInに移ったきっかけを教えてください。
実のところ、やめる気は全くなかったんです。仕事は面白いし、親会社のソフトバンクもビジョンファンドが大きく盛り上がっています。今年で40歳なのですが、ちょうど2017年4月の決算発表会で宮坂さん(ヤフー代表取締役社長の宮坂学氏)が、スマートフォンへの移行完了を宣言したのです。
私がヤフーでCMOに就任した約5年前、アプリストアの100位以内にヤフーのアプリは一つもランクインしていませんでした。Yahoo! JAPANアプリでさえ130位ぐらいだったのです。スマートフォンはウェブ版での対応がメインで、アプリに本腰を入れると言ったら社内から「ウチはウェブ版に注力している。検索があって、ランディングページがあってのウェブではないのか」という異論が出てきたほどです。今となってはアプリを使うのが一般的ですが、当時はアプリといえば閉じた世界という見方が強く残っていました。
完了宣言のタイミングでは、スマートフォン比率が65%、DAU(デイリーアクティブユーザー)の半数はスマートフォンからのアクセスとなり、トップページをタイムライン形式に変更し、YDN(ヤフーディスプレイネットワーク)がうまくヒットしたおかげで、広告売上も半分以上がスマートフォン経由になりました。Yahoo!ショッピングも取扱高の半分以上はモバイル経由なので、5年前に掲げた目標はすべてクリアしたことになります。
しかし、スマートフォンへの移行が完了したということは、CMOの役割も終わるわけです。「2018年度の組織でCMOの次の名前を考えないといけないね」という話が宮坂さんや川邊さん(ヤフー副社長 執行役員最高執行責任者の川邊健太郎氏)から出始めていて、「俺どうしよう」と思いながら、IoTプラットフォームの「MyThings」に注力するか、はたまたソフトバンクでロボットを作るかなど、グループ内で職探しを始めました。家族がいるので東京ベースが希望だったのですが、ソフトバンクだとサンフランシスコやフランスなど海外拠点になりがちで、なかなかマッチするところが見当たりませんでした。
実は今回、LinkedInにはLinkedInで転職しています。転職する気はなかったものの、しっかりとしたエージェントには、LinkedIn経由でたまにアップデートを送っていました。すると、「ぜひ話を聞いて欲しい」とエージェントから連絡があり、よくよく話を聞くとLinkedInからの接触でした。ちょうど彼らはプロダクトに強いカントリーマネージャを探していたようです。
話をさかのぼると、LinkedInとはもともとつながりがあって、5年前に彼らが日本に上陸した際、ヤフーにパートナーシップの提案を持ち込んでいました。その時の交渉担当が私だったのですが、先方のビジネスデベロップメントが年に1回程度来日しては、「シン、どうしたらうまく日本でビジネスできるのか」と相談に乗っていたのです。
エージェントからの提案後、LinkedIn側とビデオカンファレンスをセッティングすることになったのですが、なんと画面越しに座っていたのはそのビジネスデベロップメントだったんですよ(笑)。その後、各バイスプレジデントが続々と登場し、3~5月まではほぼ毎週バイスプレジデントと会ってはビジネスの相談に乗っていたのですが、さすがに頻度が多くなってきたので、正式にオファーを要請しました。そこで、LinkedIn CEOのジェフ・ウェイナー氏と面会することになったのです。
彼はとても面白い経営者です。マインドフルネスをシリコンバレーに持ち込んだ人物でもあり、トップダウンとは真逆の「1on1(上司と部下による1対1の定期的なミーティング)」を提唱しています。ヤフーも1on1を導入していますが、もともとはウェイナー氏の取り組みが最初です。あとで聞いたのですが、5年前に日本上陸してからカントリーマネージャはほぼ就任しておらず、ずっと適任者を探していたらしいのです。人材に妥協しないあたりはさすがLinkedInだなと思いました。
もともと、40代はグローバルに出たいと考えており、LinkedInからのオファーはタイミングとしてもちょうど良かったのです。いままで国内企業しか経験がなく、グローバル企業の経営マネジメントのやり方を学べる良い機会だなと。もし、その後起業するのであれば、グローバル規模でプロダクトを展開したいですし、それにはグローバル企業のマネジメントを知っておく必要があります。
――ヤフー退職を決めたあと社内の反応はいかがでしたか。
宮坂さんに退職の意向を伝えたところ「えー!」と驚かれましたが、「ありがとう、5年間よくやりきったよね」と、こちらが恐縮してしまうほどの感謝の言葉をいただきました。ワイモバイル立ち上げ時にお世話になった宮内さん(ソフトバンク代表取締役社長 兼 CEOの宮内謙氏)にも「仕方ないよね、でも二度あることは三度あるよ」と、暗に外で鍛えてまた戻ってこいと応援していただきましたし、青野さん(ソフトバンク常務執行役員人事総務統括の青野史寛氏)からは「担当人事としては止めたいところだが、良いチャンスじゃないか」と送り出していただけました。
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