元ヤフーの“モバイル野郎”がビジネスSNSを変える--LinkedIn Japan村上代表の挑戦 - (page 2)

LinkedInは働き方改革“ど真ん中”のソリューション

――新生LinkedInにおいて、ヤフー時代の経験はどのように生かされるのでしょうか。

 これまで日系企業続きだった自分からすると、初めての外資系です。もちろん公用語は英語ですし、日本オフィスには今20人弱いるのですが、プロダクトチームは私一人だけなんです。というのも、ビジネスとしてはAPACのシンガポール拠点がヘッドであり、通常のカントリーマネージャーはAPACのラインに入るのですが、国内に関してはプロダクトが不十分なため、それを改善できる体制を求めました。その結果、プロダクトのラインに入ることになり、国内オフィスのレポーティングも兼任することになったので、米国とシンガポールにレポーティングする二足のわらじ状態になってしまいました。

 といっても、ヤフー時代も汐留と六本木を行き来していましたし、横串で動くのは得意です。また、全社のバイスプレジデントと直接つながっているので、高い自由度で改善に取り組むことができます。

――上陸後、あまり存在感を示せていないLinkedIn日本版ですが、どこから手を入れていくのでしょうか。

 まずは、日本人が普通に使えるプロダクトを目指します。細かいところだと、日本語がおかしかったり用語が適切でなかったりしますが、まずは、パッと見て何ができるか分からないUIの改善です。現状だと、登録後に表示されるフィードがすべて英語になってしまいますし、RSSフィードも日本語のコンテンツを増やす必要があります。それに加えて、Facebookとの違いを明確化しなければなりません。

 日本では、ビジネスSNSとしてFacebookが多く使われていますが、本来はパーソナルやプライベート用途がメインであり、日本人がビジネス用に無理矢理使っている状態です。プライベートメインのため、ビジネス向けの機能も実装されていませんし、海外ではLinkedInがビジネスSNSとして一般的です。日本のFacebookでありがちな、ビジネスとプライベートが混ざり合っている状態というのは、公私とも仲の良い人であれば大丈夫でしょうが、仕事上で重要な人ではあるものの、プライベートとは切り離したい場合に困るのが日本のビジネスSNSの課題です。

 Facebookをビジネスで使っていてメールより便利だと感じるのが、グループチャットなどで新しい人を巻き込みやすいことです。ただし、その人物にプロフィール画像が設定されていなかったり、プロフィールも詳細がぼかされていたりと人によってまちまちです。LinkedInは名刺と同じように、写真もハッキリとしたものを使う傾向にありますし、職歴や専門領域などもしっかり掲載されているため、すぐに人となりが把握できます。

――その部分がFacebookとの差別化ポイントになるのでしょうか。

 まさしく働き方改革のど真ん中でしょう。フリーアドレスやテレワークなどいろいろ取り組みはありますが、ビジネスの本質は人と人です。ここでいかに生産性を高めていくかが重要です。

 日本にはまだ導入していない機能として「プロファインダー」というものがあります。弁護士や会計士、カメラマンなどプロフェッショナルのスキルを持っている人を、スキルベースで検索して仕事をオファーできます。こうした生産性の高い機能を早く日本に導入したいですね。根本的に働き方が変わります。


スキルを持つビジネスパーソンを検索できる「プロファインダー」

――IT企業であればLinkedInへの移行もスムーズかもしれませんが、そのほかの領域の老舗企業などにはどのように浸透させていくのでしょうか。

 一番わかりやすいところだと営業職ですね。セールスソリューションという営業向けのツールをLinkedInでは用意しており、プロフィールや活動からソーシングして顧客リストを作成できる機能があります。もちろん、スパムのように手当たり次第に営業活動されないよう処理します。LinkedInでは、セールスナビゲーターのほか、LinkedIn上で広告・マーケティング活動を展開できるマーケティングソリューション、人材・求人向けのタレントソリューションを持っています。

 求人に関しても、日本企業はリファラル採用とダイレクト採用を増やしたほうが良いでしょう。楽天、DeNA、メルカリなどでは、採用にLinkedInを活用していただいておりますが、こちらのほうが離職率も低く、継続的にコミュニケーションを取って来てもらうためお互いに間違いが少なくなります。エージェントもまずはユーザーに声をかけますが、その場では決めず、一度会って深いコミュニケーションを取ることで、それぞれの人にマッチしたオファーを紹介できるようになります。数回の面接ではわからない、継続的なリレーションがあることで実現できるのです。

 こうしてプロダクトを見てみると、マイクロソフトが巨額の費用で買収したのも理解できます。ナデラCEOに変わってからマイクロソフトの動きをウォッチしていましたが、LinkedInの買収を知った時は、ヤフーでM&Aを担当していた一人として唸り声を上げてしまいました。

 マイクロソフトとの連携も、オフィスのインテグレーションが始まったところです。また、米国と一部の地域限定ですが、Outlookの連絡先にLinkedInのプロフィールを表示する機能が発表されました。国内では、もう少し普及してからとなりますが、プロダクトのインテグレーションもありますし、今後は日本マイクロソフトとの協業も出てくると思います。

――最後に、LinkedInにとって日本市場はどういった位置づけなのでしょうか。

 長い間、きちんと取り組まなければいけない市場という認識だったようです。日本オフィス設立時からの社員によると、昔から日本への投資を呼びかけていたのですが、なかなかプライオリティが上がらず、そのままになっていました。

――なぜプライオリティが上がらなかったのでしょうか。

 展開の仕方が本当にわからなかったようです。日本参入にあたってはデジタルガレージと協業し、日本語化を進めて頑張ってみたものの、ハイアリングもうまくできていなかったようです。その時に、さきほどのビジネスデベロップメントが私のところにきて、日本市場の展開について相談していたということです。

 今回は、LinkedInの各バイスプレジデントも、日本展開をもう一度やり直す、生まれ変わるぞと張り切っています。日本の労働環境は改善の余地がたくさんありますし、40代を捧げる甲斐のある課題だと思っています。

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