「SDGs」という言葉を聞いたことがあるだろうか。2015年9月に国連で採択された「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」である。ここには、2030年までに国際社会が達成すべき17の目標と169のターゲットが掲げられている。
実は、すでに2000年の時点で、「ミレニアム開発目標(MDGs:Millennium Development Goals)」が採択され、貧困や環境問題に対する取り組みは進められてきた。
しかし、15年もの努力があってもなお、戦争や紛争は絶えず、大勢の人々が貧困に苦しみ、地球環境は危機に晒され、社会課題はいっそう複雑化している。
そうした危機感のもと、MDGsを継承する形で、より包括的なアプローチで課題解決に取り組もうとするのがSDGsである。途上国だけでなく先進国も、政府だけでなく企業や市民社会も含めた、世界中のあらゆるプレイヤーの参画と協働と呼びかけているのが大きな特徴だ。
では、このSDGsは企業社会にどのような影響を及ぼしているのだろうか?
そして、日本企業は今後どう対応していくべきか?
まず、企業が自社の経営戦略とSDGsを統合させることで、新たなビジネスチャンスを生み出し、競争力を高め、企業価値を向上させられるというロジックは明確に打ち出されている。
例えば、ビジネスと持続可能な開発委員会(BSDC)が2017年1月に発行したレポートでは、「食料と農業」「都市」「エネルギーと材料」「健康と福祉」の4領域において、SDGsの達成に向けた取り組みが進むことで12兆ドルの市場機会が創出されると示唆している。
SDGsが示す地球規模の優先課題に対して、革新的な技術や解決アイデアをもつ企業は、さらなる市場の拡大や資本へのアクセス緩和が可能になる。また、資源の効率的な活用や持続可能な代替策への転換についても、経済的なインセンティブを強化する動きが高まっている。
このように、社会課題の解決と企業の成長の両方を促すことで、SDGsでは、社会と市場の双方の安定化を目指しているのである。
日本政府も、SDGs実施指針において、「民間セクターが公的課題の解決に貢献することが決定的に重要」と明記している。日本企業が、サプライチェーン全体で課題解決に取り組むことの社会的インパクトは決して小さくはないはずだ。
自社の経営戦略とSDGsを統合させていくにあたっては、SDGsの各目標が、独立した課題の集合体であると同時に、相互に関連した包括的な目標であることも着目すべき点であろう。
例えば、「水と衛生」分野では、井戸やトイレを作ることで病気の蔓延を防ぎ、「貧困をなくす」、「健康と福祉を推進する」という目標に貢献することができる。
さらには、水運びの労働から子ども(特に女児)を解放し、教育が受けられることで「ジェンダー平等」の目標にも貢献できる。
つまり、特定の課題に絞るよりも、俯瞰的な視点で統合的に取り組むことで、よりよい成果を生み出しやすいという考え方がSDGsのベースになっているのだ。
こうした点からも、特定の課題のみを抽出し、自社の事業に都合よくあてはめるだけでは、不十分な取り組みとなってしまうことが想像できるだろう。経営の中にSDGsの課題をどう位置づけていくか、中長期的な経営ビジョンと戦略方針に基づいた綿密な検討と対応が必要だ。
日本でも取り組みを本格化させる企業が出てきている。
例えば、味の素では、SDGsをふまえて社会課題と事業の関係性を整理し、特に事業とかかわりの深いSDGs目標に沿ったプロジェクトが進行中だ。ガーナでの栄養改善プロジェクトでは女性販売員の起用を積極的に行っている。SDGsという世界共通の目標と自社の事業を重ね合わせることで、その実効性や社会的インパクトを高めようとする取り組み姿勢は注目すべき点だろう。
自社での検討に活用できるツールの一つに、「SDGコンパス」がある。これは、グローバル・レポーティング・イニシアチブ(GRI)、国連グローバル・コンパクト、持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)が共同で開発したSDGsの企業行動指針である。
「1. SDGsを理解する」、「2. 優先課題を決定する」、「3. 目標を設定する」、「4. 経営へ統合する」、「5. 報告とコミュニケーションを行う」という5つのステップで解説されており、SDGsをふまえた経営戦略の策定や見直しに役立てられるだろう。
SDGsのキーワードは、「人間中心(People-centered)」、「誰一人取り残さない(No one will be left behind)」。社会的な存在としての企業のあり方がまさに問われている。持続可能な世界をつくるために、日本企業が果たしうる役割はきわめて大きい。自社の存続と発展のためにも、SDGsへの取り組みは経営の必須課題といっても過言ではない。
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この記事はビデオリサーチインタラクティブのコラムからの転載です。
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