アップルは米国時間9月12日、カリフォルニア州 クパチーノに建設された新本社「Apple Park」でスペシャルイベントを開催し、「iPhone X」「iPhone 8」「iPhone 8 Plus」などを発表した。その翌日、アップルとの商談でアップル本社近くのホテルに滞在していたKDDI 代表取締役社長の田中孝司氏を訪ねた。
田中氏は、UQコミュニケーションズ代表取締役社長を経て、2010年にKDDIの代表取締役社長に就任。2011年に発表された「iPhone 4S」では、それまでソフトバンク独占だったiPhoneの販売を初めて行い、2012年の「iPhone 5」でテザリングサービスをいち早く決断・発表するなど、社長就任後の田中氏は何かとiPhoneとの縁が深い。
加えてエンジニア出身で、長年にわたって小型端末やPCへの造詣も深い田中氏に、10周年を迎えたiPhoneについて、新製品の印象や今後の販売戦略などを聞いた。
――日本は世界でも類を見ない高iPhone比率の市場です。だからこそ、年に一度のiPhone発表時は大きな話題になりますが、この状況は今後も続くでしょうか?
よくわれわれキャリアがiPhoneをたくさん売ろうと販売競争を仕掛けたから、世界でも高級品だったiPhoneが多くの人の手に渡り、日本の社会に浸透したなんて言われます。確かに日本市場においてiPhoneは購入しやすいリーズナブルな端末でもありました。それは一因でしょう。しかし、それだけではないとも思っています。
当時、われわれはAndroidに投資をして世界中がスマートフォンへと向かう中、すでにフィーチャーフォンで実現していた機能やアプリケーションをAndroid端末に移植。平たく言うとガラケー機能を持つスマートフォンを作りました。
一方で当時のAndroidはソフトウェアとしての品質がまだ高くはなく、またバージョンも細分化してアップデートも継続しにくいなどさまざまな問題も抱えていました。ガラケー機能は引き継いだけれども、消費者はガラケー機能ではなく端末の本質的な部分を見ていたのだと思います。
今はAndroidのソフトウェア品質も向上しましたが、当時の話で言えばiPhoneの持つテイスト……たとえば外観や各部の仕上げ、ユーザーインターフェースの細かなツメの部分やデザインテイストなど、気の利いた作りをしていたアップルを、日本の消費者が好んだ結果だと思います。日本人の感性とiPhoneの相性の良さが、購入のしやすさと相乗効果を生んで、他に類を見ないほどiPhone販売比率の高い市場が生まれたのでしょう。
――当時から「iPhoneを販売するには相当な台数の販売を保証する必要があり、そのために(当時は認められていた)補助金を厚めに付けているのでは?」という話もありましたが、田中さんは明確に否定していましたよね。実際にはどういう状況だったのでしょう?
iPhoneを取り扱う契約を結ぶ交渉をする中で、われわれ携帯電話事業者と端末メーカーの関係、どちらが強かったのかという話です。具体的なことは言えませんが、販売目標台数や台数コミットなどということはありません。
――新型iPhoneの発表では正常進化版とも言えるiPhone 8の後、ティム・クックCEOが「この10年iPhoneが大きく社会を変えてきたが、これからの10年を変えていくためにiPhone Xを発表する」と話しました。ユーザーインターフェース面で制約を取り去ったほか、顔の形状や表情を読み取る3Dセンシング技術を搭載するなど“新機能”をフィーチャーするよりも、新しいアプリを呼び込むための仕掛け、フレームワークを作り、これからの10年を前進したいと考えているように感じました。田中社長はiPhone Xをどのように見ましたか?
「Face ID」という仕組みでアンロックする。これだけならば機能ですが、赤外線で顔をスキャンしてキャラのアニメーションを作成する「Animoji」などもあります。サードパーティのアプリも、この機能を用いて顔にメイクをしたりとなかなか興味深い提案がありますよね。単に新機能として提供するのではなくAPIを定義し、ライブラリやツールを提供することで、新しいアプリの呼び込み、創造につながっていく。ユーザーとインタラクトするためのI/O手段がひとつ増えたという理解が正しいんだと思います。
――実際、初期のスマートフォンはさまざまなセンサの性能が向上したり、種類が増えたりとI/Oが増えていくことで用途がどんどん広がっていきました。
今のスマートフォンは広帯域でネットワークにつながり、その先にはクラウドがあります。iPhone Xのように新しいセンシング技術を取り込んで行き、それを自由に使えるようデベロッパーのコミュニティに放り込んでいけば、スマートフォンという枠組みの中で、もっともっとたくさんできることがあるんじゃないの?という感触は、iPhone Xから感じました。
iPhone XのデモンストレーションではAnimojiのようにバーチャルのキャラクターを動かしていますが、自分自身の顔をスキャンして動かしてみたり、あるいはリアルの世界やモノをあの仕組みで動かすなど、いろいろ面白い発展が将来にあると楽しいでしょうね。
――“これからの10年”という意味では、新しいセンシング技術が順次、例年のiPhone Xで導入されるなどのシナリオもあるかもしれないですね。
ティム・クックCEOが、どういう意図で『これからの10年を変えるため』と発言したのかはわかりません。しかし、新しいセンシング技術を追加していく可能性はあると思います。ディスプレイの一部に切り欠きを作ってまで、コンパクトにセンサ部をまとめ、インカメラ側のセンサを充実させた。これはなかなか興味深い判断だと思います。
これまでの端末は、主に“外側”を取り込むことを重視していました。リアカメラの方がたいていは高画質でしょう。しかし今後、VRやARといったアプリケーションが発展していく中で、自分自身をどうセンシングしていくのか。顔の形状、表情などだけではなく、利用者の情報を積極的に取り込んでいくユーザーインターフェースへの想像をかき立てられて、面白い時代になってきたなと感じています。
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