8月21日、デジタルハリウッド大学大学院駿河台キャンパスにて「エンタテインメントの未来を考える会 黒川塾(五十ニ)」と題したトークセッションが行われた。コラムニストの黒川文雄氏が主宰しており、エンターテインメントの原点を見つめなおし、ポジティブに未来を考える会となっている。
今回は「誰でもわかるゲームAI(人工知能)の話」と題し、デジタルゲームにおけるAIの活用と展望が語られた。登壇したのはグラフィック・クリエーターであり、ゲーム「がんばれ森川君2号」や「アストロノーカ」などAIを活用したタイトルを手がけたことでも知られる森川幸人氏と、ゲームAI開発者として著名タイトルを手がけている三宅陽一郎氏。
冒頭で話題となったのは、8月16日付けで設立されたゲーム専用AI会社「モリカトロン株式会社」について。森川氏が代表取締役モリカトロンAI研究所所長として就任し、これまで森川氏が培ったノウハウや実績を活かして、さまざまなゲーム向けAIのコンサルティングから設計、開発、運用までを請負うゲームAI研究開発事業を展開するという。
「去年の今ごろは(会社設立を)1ミリも考えていなかった」という森川氏。近年のAIがブームと呼べるほど注目を集め、ゲーム関連で興味を持つ関係者や企業も増えてきたことから設立に至ったという。発表ではゲーム専門のAIを手がける会社は日本初としているが、三宅氏によれば、AIを手がける会社そのものは多いものの、商業ゲームやエンターテインメントジャンルに特化したAIを手がける会社は、世界で見てもほぼないとのこと。
これは裏を返すと、それまではあまり興味を持ってもらえない状態が続いていたともいえ、実際に森川氏は20年ほど前からゲームにAIが有用だと主張していたものの、「相手にされなかった」と表現するほど、あまり関心を持たれなかったと振り返る。この背景として三宅氏は、1990年代後半にゲーム業界でもAIが注目を集めた時期はあったものの、2000年代に入ってからは、ゲームにおける力の入れどころをグラフィックスに置く流れになってしまい、AIに力が入れられない状態になってしまいったという。
三宅氏によれば、グラフィックの進化が一段落したあたりからあらためてAIが着目されるようになり、それが本格的となったのが、2011、12年あたり。もっとも2002年頃の米国は情報科学分野が弱まったことがあり、以前は相手にされなかったゲーム業界と情報科学を結びつけようとする機運が高まったという。実際にGDC(Game Developers Conference)ではAI開発者がセッションを行ったり、AIの学会にゲーム開発者が赴くなど、相互交流のようなことが行われたと語る。ただ、こういった動きは国内で見られないと付け加えた。
そもそもAIがゲームにもたらすものは何か。三宅氏は「固定化していたものを動的なものにする」と一言。たとえばキャラクターの動きはパス(順路)を固定化しているものだったが、AIによってその場その場で思考し、パス検索という技術を通じて自由に動くことができる。ほかにも敵キャラクターの出現位置もプレーヤーの来た方向に応じて配置を決めたり、しいては難易度の設定やストーリーも作るといったことをAIが担うことによって、コンテンツが柔軟化。ゲームを遊んでいる人にとっていいゲームになるように、ゲーム自身が変化していくという。「ゲームがAIを必要として、よりダイナミックなゲームになろうとしている」と説明した。
三宅氏は「ゲームの本質にきわめて近いところにある」と語る。ユーザーと常に接しているのはキャラクターであり、キャラクターのブレーンは人工知能と考えると、ゲームプレイは最初から最後まで人工知能と戯れているようなものと説明。最近では、ゲームデザインにおいても「メタAI」と呼ばれる、ゲームデザインそのものを調整するAIも取り入れられており「ゲームの本質を進化させるひとつのファクター」という。
また、同じことを繰り返しさせることが比較的多いソーシャルゲームは、AIの学習に向いており、ログ解析を通じてユーザビリティの向上など、サービスを充実させるために用いられることでの需要があることも付け加えた。
さらにはデバッグにおいてのAI活用についても、三宅氏は研究を進めているという。長く人海戦術でこなしている現実があるなかで、ユーザーのログからテスターのAIを作ることによって、完全なる入れ替わりは難しくとも、何割かはデバッグ作業を担える見込みがあるとしている。
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