ゲームAIが相手にされなかった理由--森川幸人氏と三宅陽一郎氏が語る苦闘の歴史 - (page 3)

日本がオープンワールドゲームに乗り遅れた背景

 森川氏は、ゲームは筋書きのあるドラマという一面があり、開発者の思い通りにキャラクターを動かして展開したいと思った時、AIが持つ自律性が邪魔になってしまう場面が多々あるという。三宅氏はゲームキャラクターについて、その世界では生物であると同時に“役者”でもあると表現。筋書きに沿った演技をするモードと、自律的なモードをシームレスにつないでいくかがポイントだと説明した。

三宅陽一郎氏
三宅陽一郎氏

 三宅氏はゲーム業界に入った直後、AIの導入を提案したところ、キャラクターが勝手に動くとデバッグに困るといった反対意見が出てきたと振り返る。例えばキャラクターの行動をパスで設定するといったことを通じて開発者のコントロール下においていた。しかしながら、ゲームの世界が大きくなるにつれて、AIに任せる部分も増えてきたという。

 「ゲーム開発はアートとテクノロジのせめぎあい。その中間点を見出すのがしんどいところでもあり、一番面白いところ」と表現する三宅氏。そんな氏から見た森川氏は、その両方を持ち合わせた数少ない人物であり、だからこそ初代プレイステーションの時代にAIを活用したゲームができたと説明する。そして森川氏は、当時の風潮だからこそ作ることができたものであり、今では企画として通すことが難しいとも語る。

 三宅氏は、世間のAIブームとゲーム業界におけるAIブームにはずれがあり、2010年から起きているとされる第3次AIブームが、ゲーム業界においてはこれから本格化していくのではと予測する。ただし、AIに関するエキスパートを育てる環境がゲーム業界になかったことから、人材は足りない状態だとしている。

 三宅氏はゲームにおけるAI活用の歴史に触れつつ、自身の取り組みについて説明した。40年ぐらい前のゲームでは、キャラクターはマップと一体化したギミックとして使われていたが、1990年ごろから、キャラクターを独立して動かせるようになった。そのエポックメイキングなタイトルが「パックマン」で、いまだにゲームAIの元祖と呼ばれているという。

 その後、3Dを活用したゲームによって、自律型AIが登場したのも大きな変化だと説明する。ゲームデザイナーが、キャラクターを操り人形のようにスクリプトを通じて動かしていたが、AIに役割を与えて自律的に動くようになっていった。そして前述したパス検索によって自由に動くことができるようになり、長いパスを移動するということから時間的な思考を持るようになったという。

現代ゲームAIの仕組み
現代ゲームAIの仕組み

 そこからプランニング(計画)という技術も取り入れられる。たとえば、敵キャラクターが室内にいるプレーヤーに対して、ドアを開けて攻撃するという計画を持たせ、ドアが開かない場合は、窓ガラスを破壊して進入する計画に変更するという具合に、時間の流れを持ってひとつだけではない計画に沿って行動するようになった。これが2004年ぐらいの出来事とのこと。さらには、何の知識もないキャラクターが、プレーヤーのデータをもとにうまくいくパターンを見つけ出そうしていく学習機能も導入されるようになっていった。

計画を立てるAI
計画を立てるAI

 三宅氏は、AIの進化は主に海外で行われていたことで、この流れに日本は乗っていなかったという。その理由として、海外では「AIがないとFPS(ファーストパーソンシューティング)ゲームなんて作れない」というほどAIに頼っていた状態であり、それゆえにAIの進化が積み重ねられていった。

 一方の日本では、ゲームデザイナーが優秀かつレベルデザインの工夫によって、AIが賢くなくてもいいゲームができてしまったからという見解を示した。そこまでAIが賢くないという前提があるゲームは、ゲームデザインがリニアなものになり束縛してしまう。このことが、オープンワールドと呼ばれるタイプのゲームに、日本が乗り遅れる要因になったと説明する。

現代のメタAI
現代のメタAI

 AIが優秀になるほど自由奔放に動き回るが、意図しない動きをしてしまうため、それを管理する立場となる「メタAI」が搭載されるようになる。ゲーム内の“神様”のような立ち位置で、ユーザーの挙動から緊張度や心理状態などをビッグデータなどから抽出し、出現する敵の数やタイミングを調整するなど、ユーザーにあわせてゲームをコントロールする。また、メタAIの導入によって、自律型で自由奔放に動き回るキャラクターが、役者となって演技をするかのように振る舞えるようになる。映画でいうところの監督のような役割を持ち、基本的に制限と際限のないオープンワールドのゲームでは、これらのAI技術が必要不可欠であるという。

メタAIによるユーザーのリラックス度に応じた敵出現度
メタAIによるユーザーのリラックス度に応じた敵出現度

 三宅氏は、こういったゲームに活用するAIの開発は、AI技術者だけでは作ることができず、ゲームデザインの知識も必要だとするものの、人材はかなり不足していると語る。森川氏も、ゲームにおける活用は教科書通りにはいかないことが多く、実際にゲームを作りながらAIを使っていかないと知見は得られないとし、これからAIを活用したゲームが多く出ることに期待を寄せた。

 もちろんAIはゲームの外側でも活用されており、例えばオンライン対戦のマッチングを遺伝的アルゴリズムを活用して、プレーヤーが楽しめるように組み合わせたり、ネットに接続された状態の端末やゲーム機から、ゲームの進行度合いや利用状況などの各種データをビッグデータとして活用し、改善を進めるといったことでも使われているという。

三宅氏によるゲームAIのまとめ
三宅氏によるゲームAIのまとめ

 三宅氏によれば、2002~2010年ごろまでがゲームAIに関するいろいろな技術が出てきた熱い時代だったが、その後5年ぐらいはオープンワールドに適用するために費やされたという。そしてオープンワールドのゲームを作るエンジンが普及したこれからの時代は、学習の方向に着目されるのではと、自身の願望も含めて期待しているという。そのためには、活用したゲームが面白くできるかどうかにかかっており、育成が難しいとしながらも、AIをアートと技術の両面から理解している人材が必要だとした。

 森川氏は、かつてはゲーム会社と組むしかAIを活用するゲームを作れなかったが、現代においては、AIに関するツールは転がっていると言えるほどさまざまななものが流通していることに触れ、「AIはおもちゃだと思ってほしい」という。「ゲームにAIを使うという考え方ではなく、まずはAIをいろいろいじって遊んでほしい。体感したなかでひらめいたアイデアからブレイクスルーが生まれるのでは」と語った。

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