ゲームAIが相手にされなかった理由--森川幸人氏と三宅陽一郎氏が語る苦闘の歴史 - (page 2)

「がんばれ森川君2号」をはじめとする森川氏の苦闘の歴史

 森川氏が改めて手掛けてきたタイトルについて、当時の開発経緯などを語った。そもそも森川氏がAIを活用したゲームを作ろうと思ったきっかけとして「やらなくていいゲームを作りたかった」、今でいうところの“放置ゲーム”を考えたという。例えばアクションゲームの冒頭部分を操作しそれを学習。あとはキャラクターが勝手にコースを進んで攻略していくようなイメージだ。

森川氏が考えた「やらなくていいゲームを作りたい」
森川氏が考えた「やらなくていいゲームを作りたい」

 実際、後にがんばれ森川君2号の発売元となるSCE(ソニー・コンピュータエンタテインメント、現在のソニー・インタラクティブエンタテインメント)に、この案をベースにした企画書を提出したものの、なかなか理解が得られなかったという。今でこそ放置ゲームというジャンルが存在するものの、当時のゲームはボリュームのある、コントローラを操作して遊びごたえのあるものが求められていたと振り返る。

 それでも、初代プレイステーションのころは自由な発想による斬新かつ意欲的なタイトルが作られていたこともあり、結果としてがんばれ森川君2号は発売されることとなった。本作はニューラルネットワークという簡易な脳を搭載したゲームであり、三宅氏によると、ニューラルネットワークを活用した商業ゲームは、世界でも10タイトル程度しかないという。SCEのプロモーション施策がうまくいったこともあって、一定のセールスにはなったものの、ユーザーからは“やることがない”というネガティブな評価を受けてしまったという。

 ちなみにゲームタイトルに森川氏自身の名前が付けられているが、これは当時のプロデューサーが付けたものだとし「ゲームショウで初めて知った」と、当時のことを振り返った。

「がんばれ森川君2号」
「がんばれ森川君2号」

 がんばれ森川君2号での反省を踏まえ、エンターテイメント性を強めてリリースしたのが「ここ掘れ!プッカ」。ニューラルネットワークを搭載し、発掘した石が価値のある宝石かガラクタなのかを、キャラクターが判別して持ち帰るという内容。石をアイテムIDではなく「白いもの」「長いもの」などで学習していくという。三宅氏は絶賛していたものの、セールスとしては乏しかったと森川氏は語った。

「ここ掘れ!プッカ」
「ここ掘れ!プッカ」

 この次に制作したのが、農業をテーマにしたシミュレーションゲームの「アストロノーカ」。アイデアのもととなったのは、東京都のゴミの埋め立て地である夢の島で起きたハエ問題だ。大量のハエが発生したため、殺虫剤による駆除で対策を試みたが、耐性のあるハエが出現。さらに強力な殺虫剤を使用する流れとなってしまった出来事があった。

 アストロノーカでは、プレーヤーが“害獣のバブー”から畑を守るために、さまざまなトラップをしかけていくのだが、バブーはだんだんと仕掛けたトラップの回避方法を学習していく。このバブーのAIには遺伝的アルゴリズムを活用しており、例えば落とし穴ばかり仕掛けていると、落とし穴を回避できることに特化したバブーが登場する。バブー自身が進化して、パラメータを獲得していく仕組みと説明した。

 三宅氏はアストロノーカを「遺伝的アルゴリズムを活用したゲームでは、世界的な傑作」と表現し、新人研修では必ず解説に入れるタイトルだという。森川氏は遺伝的アルゴリズムについて、新しい技術ではないものの、ゲームにおいては現役で十分活用可能で、使い勝手のいいものと語る。三宅氏も、昨今ではディープラーニングが話題となっているものの、当時のゲーム業界が第2次AIブームのときの技術をあまり検証していない状態であると語る。そのため、膨大なデータが必要で、なおかつ複雑で難しい計算も求められるディープラーニングにいきなり飛びつくよりは、オーソドックスなニューラルネットワークや遺伝的アルゴリズムの活用による、ゲームの可能性を探求すべきと主張した。

「アストロノーカ」
「アストロノーカ」

 このころ、森川氏が考えていたのは「キャラクターを自由にしゃべらせたい」ということ。その思いをもとに、2003年に発売されたのが「くまうた」。歌詞とメロディを自動生成し、音声合成によって、くまが演歌を歌うというもの。歌にしたのは、当時の音声合成技術ではイントネーションがうまく表現できなかったための対応策。演歌にしたのは、コード進行が限られており、自動生成がやりやすいためと説明。これも斬新なタイトルではあったが、この後に登場した初音ミクのブームを見て、森川氏は「こっちだったか……」と素直な心境を語った。

「くまうた」
「くまうた」

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