大学受験やプログラミング、文芸小説、イラストレーターなど、Advanced Programの授業で生徒たちが使うのが、生放送と教材がセットになった専用アプリ「N予備校」だ。卒業資格を取るためのBasic Programでは、文部科学省が定めた規定に沿って学ぶ必要があるため、アプリの機能なども制限されてしまうが、自由度の高い課外授業であるAdvanced Programでは、ニコニコ動画で培ったドワンゴの技術や知見をいかんなく発揮できる。
N予備校のアプリを開発するにあたり、カドカワ代表取締役社長の川上量生氏から2つのミッションを与えられたと、ドワンゴ 教育事業本部 コンテンツ開発部 部長の今野寿昭氏は振り返る。
1つ目が、授業に「双方向性」を入れること。近年は映像による学習アプリも増えているが、多くが一方的に映像を流すもので、それを視聴するだけでは学生は集中できず、学習も続かないといった課題がある。その点については、まさに同社の得意とするところ。ニコニコ動画のノウハウを生かし、生徒たちの書きこんだコメントを画面上に流すことで、生徒間や先生とのリアルタイムなコミュニケーションを可能にした。
映像授業向けにカスタマイズした機能も実装。解説が理解できた時や、納得した時などには「なるほど」ボタンで先生に気持ちを伝えられる。また、「質問スイッチ」を入れてコメントすれば、先生に質問として伝わり、答えてもらいやすくした。先生から出された問題に対して「挙手ボタン」を押すと、ノートに書いた答案をその場で添削してもらうことも可能だ。授業中に分からなかったところがあれば、アプリ内の「Q&A」で質問できるほか、見逃した授業はアーカイブで視聴することもできる。
「イメージしたのは、抽選に当たると生主と電話ができる『ニコニコ電話』(2014年1月にサービス終了)に近い仕組み。教室で手を挙げた人が黒板に答えを書いて先生が採点をする。これをネット上で再現できればかなり双方向性が高く学習効果もある。そこで、生徒が答案をスマホで撮って、先生が採点するのがいいのではと考えた」(今野氏)。
2つ目が、スマホでの学習に最適化された「オリジナル教材」の開発だ。高校生にはスマホしか持っていない子も多く、本の教材を電子化して縮小しただけでは使い勝手が悪い。そこで、学習参考書の出版社として約30年の歴史を持つ、グループ会社の中経出版の協力のもと、「外注ではなく内製で、いちからフォーマットや教材を作ることにした」(今野氏)という。
こうして、50冊分以上のボリュームを誇る参考書・問題集を独自に開発した。問題集は、暗記系の一問一答形式からセンター試験形式(問題文+選択式小問、穴埋め形式)まで多様な形式に対応。正解・不正解は自動で記録され、間違った問題だけやり直せる。また、解説を読んでも分からない問題は、スマホに最適化された縦スクロールで読める参考書で理解を深めることができるという。
生放送授業で各教科を教える講師陣にもこだわった。中経出版の学習参考書を執筆していた有名予備校講師のもとに出向き、1人1人に対して、ともに新たな教育サービスを作ってもらえないかと頭を下げたという。
「参考書を出版し、かつITに興味のある先生を中心に口説いた。そうやって集まっていただいた方々は、電子黒板なども使いこなしており、(N予備校の)システムに慣れるのも早い。何より人を惹きつけることが得意で、生徒の学力を伸ばすことに真摯な方ばかり。クローズな教室と違い、ネットではコメントで誹謗中傷される可能性もある中で、新しいことにどんどん挑戦してくれる先生たちには頭が上がらない」(今野氏)。
日中はアルバイトをしている生徒も多いことから、生放送授業の配信時間帯は17~22時半と夕方から夜間に寄せている(夏休みなど長期休暇期間は変動)。また、より多くの人に学びの機会を提供するため、2016年7月からは一般ユーザーもN予備校で一部の授業を受けられるようにした。
ニコニコ動画で培った双方向性のあるコミュニケーションの仕掛けや独自開発した教材には自信を持っていたものの、本当に生徒たちはN予備校を使ってくれるのか――。そんな不安もあったそうだが、3月に生徒たちの大学合格祝賀会を開いた際には、「驚くほど魅力を感じてくれていた」と今野氏は話す。「自宅浪人でずっと勉強していた生徒から、1人で悶々として焦っていたが、(N予備校を通じて)人と競いあったり励ましあったりできるようになり、仲間とつながっていると感じると言ってもらえた。また、授業が派手なので教材を使ってくれるか心配していたが、合格者は使い込んでくれていて、北海道大学や九州大学などの国立大や、早慶上智といった難関私大を含む多くの大学に合格した」(今野氏)。
なお、N高では生徒がキャンパスに通う通学コースも用意している。ネットコースの学習内容に加えて、生徒同士でグループワークやプレゼンテーションをするチーム型の参加型授業「スペシャルN」、コミュニケーション能力の育成を目的としたショートプログラム型授業「ベーシックN」、1年を通してチームで実社会の課題をみつけ、解決策を検討・実行し、成果を発表する「プロジェクトN」など、リアルならではのコミュニケーションを重視した授業を受けられる。
ただし、現状は東京の代々木キャンパスと、大阪の心斎橋キャンパスの2校しか校舎がないこともあり、通学コースを選んでいる生徒は300人ほどと少数だという。今後はリアルの授業を受けたいという生徒のニーズに応えるため、2018年4月に横浜、千葉、名古屋、大宮に新キャンパスを開校する予定だ。
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