朝日新聞がテレビ局とベンチャーファンド設立--メディアならではの強みを生かす

藤井涼 (編集部) 井口裕右2017年08月07日 08時00分
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 朝日新聞が出資するコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)である朝日メディアラボベンチャーズは8月7日、朝日メディアグループファンド(朝日メディアグループ1号投資事業有限責任組合)を組成したと発表した。

 ファンドには、朝日新聞、テレビ朝日ホールディングスに加えて、名古屋テレビとABC朝日放送のコーポレートベンチャーキャピタルが出資し、ファンド規模は約20億円。2017年内には追加出資も募ることで30億円規模のファンドを目指すという。投資対象となるのは、主に国内外のアーリーステージ、シードステージのインターネット関連企業や新興メディア企業で、日本と米国シリコンバレーに拠点を置く。

 新聞やテレビといった、メディアグループの特徴を生かしてベンチャー企業と連携することで、新たなメディアビジネスの実現を目指す。すでに米国に暮らすアジア人向けのマッチングサービス「EastMeetEast」を運営する日本人経営の米国企業EAST MEET EASTへの出資を決定しているという。


(左から)朝日新聞メディアラボの山田正美氏、野澤博氏、白石健太郎氏、佐野敦氏

 今回のファンド組成の狙いや目指すビジョン、そしてベンチャー投資先進国である米国シリコンバレーの現状などについて、朝日新聞メディアラボでシリコンバレー事務所長を務める野澤博氏、日本国内のベンチャー支援を行う白石健太郎氏と山田正美氏、ファンドの財務経理などを担当する佐野敦氏に話を聞いた。

メディアグループがベンチャー投資を加速させる狙い

――まずは、ファンド設立の背景と狙いを聞かせてください。

野澤氏:背景としては、メディアビジネスを取り巻く環境が大きく変化している中で、こうした変化に対応する新サービスが、私たちのような既存メディアの外でどんどん生み出されています。この状況を踏まえて、こうしたベンチャー企業と連携するために投資という手段を活用していきたいという考えから、今回のファンド設立に至りました。これまで朝日新聞メディアラボでのアクセラレータプログラムなどを通じてベンチャーを支援してきましたが、知見が蓄積されてきたことでベンチャー企業との取り組みをさらに加速させたいという狙いがあります。

 一般的なベンチャーファンドは二人組合で組成することが多いですが、今回は朝日新聞と朝日メディアラボベンチャーズに加えて、グループのテレビ局にも参画してもらいました。これによって、ベンチャー企業のソーシング、バリューアップ、イグジットの創出という面において可能性が広がるのではないかと考えています。

――これまでの朝日新聞としてのベンチャー支援の実績や、そこで得られた気づきを教えてください。

野澤氏:朝日新聞でも既存事業部門の中で新規事業を生み出そうという試みが行われてきましたが、なかなか新規事業が興りにくいという課題がありました。朝日新聞のビジネスをけん引する中核機能に優先的に技術やアイデアといったリソースを費やす必要があるわけです。

 一方で、ベンチャー企業と生み出す新規事業やイノベーションは、最初は小さい規模でスタートするわけですが、朝日新聞の中核事業から見ると利益も小さく協業の意義やメリットも感じにくい。“組む必要があるのか?”となるわけです。であるならば、朝日新聞の本体からは切り離して新規事業領域をしっかり考えていく体制を作る必要があるのではないかと感じました。

――今回、テレビ局がファンドに参画する点は大きなトピックスだと思います。

山田氏:名古屋テレビとABC朝日放送はすでにCVCを組織してベンチャー投資の環境を整えていたという背景があり、これによって東京とシリコンバレー、大阪、名古屋と展開することで、お互いを補いあえるのではないかと考えています。

 加えて、昨今は動画を活用したメディアビジネスも注目されていることから、知見とノウハウが豊富なテレビ局が参画することで連携の可能性が広がると思っています。具体的にベンチャー企業に対してどのような支援ができるのかは、今後各社と意見交換しながらさまざまな選択肢を検討していきたいと思います。新聞社だけで行っていたアクセラレータプログラムから一歩先に進んだ、メディアグループならではの支援をしていきたいですね。


「テレビ局が参画することで連携の可能性が広がる」と山田氏

野澤氏:メディアならではのリーチ力を生かした支援をしたいという発想はありますが、ファンド組成直後ということもあり、支援の形については可能性を模索しているところです。ベンチャー企業がさまざまなVCから投資・支援を受ける中で、メディアグループならではの強みを生かせる環境を作っていきたいと思います。

――投資対象となるベンチャー企業について教えてください。

野澤氏:基本的にはインターネットサービスの領域、特にメディア、マーケティングの領域でライフスタイルの変革を目指すような事業を展開している企業を投資対象として想定しています。メディア領域であれば、朝日新聞のように紙で情報を届ける、ウェブメディアのようにサイトで情報を届ける、という既存の方法に置き換わる新しい情報デリバリーの方法があるのではないかと思います。こうした新しい可能性に挑戦しようとしている企業には興味がありますね。投資規模は1案件あたり3000万円から5000万円程度を想定しています。

――今回ファンドには外部アドバイザーとして米国Social StartsのBill Lohse氏、ユーザベース創業者の梅田優祐氏、ソラシード・スタートアップス代表パートナーの柴田泰成氏が参画しますが、このアドバイザーの選定経緯について教えてください。

野澤氏:アドバイザーに加わっていただいた3名はそれぞれメディア事業に造詣が深く、北米のベンチャー投資に精通しています。そして起業から上場までのプロセスをすべて経験して、自身でもベンチャー投資を積極的に推進されています。こうした経験や知見を生かしていただきたいという考えからアドバイザーをお願いしています。

メディアファンドが積極的にベンチャー投資するシリコンバレー

――野澤さんはシリコンバレーを拠点にされていたそうですね。具体的にどのような活動をしていたのでしょう。

野澤氏:私はシリコンバレーを拠点にして3年になりますが、最初は投資を目的にしていたわけではなく、新規事業のヒントを探ったり、業務提携などの可能性を模索したりすることを目的にしていました。しかし、新規事業のタネをそのまま日本に持ってくることは難しく、業務提携もシリコンバレーで提携を推進する人と、日本で事案を引き継いで事業を推進する人が異なると、日本とシリコンバレーの熱量の差が事業の成否に影響する可能性もある。そうしたことが見えてきたため、2016年からはベンチャー投資を切り口に可能性を探る方針に転換しました。


北米のベンチャー投資の現状について語る野澤氏

――日本と米国のベンチャー投資にはどのような違いがあると考えますか。

野澤氏:圧倒的にベンチャーの数が違うところが大きな違いですね。数が多ければいいとは一概には言えませんが、ベンチャーの数が多いだけ優良な企業と出会える可能性も高くなるわけです。また、英語圏である北米のベンチャー企業は最初から広いマーケットをみたビジネスを考えている点も大きいと思います。日本では“グローバル展開を目指す”とわざわざ銘打つと思いますが、北米では英語圏でのグローバル展開が当たり前です。加えて、テクノロジオリエンテッドのスタートアップが多いことも特徴ですね。

――今回のファンドでは北米を中心に海外のベンチャーにも投資していくとのことですが、どのように投資を進めていくのでしょう。

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