エレベータの修理や階段昇降機の設計というと、やや面白味を欠くように思うかもしれないが、意外なことに、これらはいずれもMicrosoftの最先端の拡張現実テクノロジを実験する場になっている。
工業製品メーカーでエレベータも手がけているthyssenkruppは、数カ月前から、これら2つの分野でMicrosoftの「HoloLens」テクノロジを利用している。
これはHoloLensの最も華々しい活用事例ではないかもしれない。HoloLensはヘッドセットのスクリーンを使って、ユーザーの視界にデジタルの物体を表示する。この手法は通常、拡張現実(AR)として知られるが、Microsoftは同ヘッドセットに関して、「複合現実」という用語を使うことを好む。
だが、おそらくそれこそが重要な点なのだろう。これまで関心が向けられてきたのは、ほとんどがゲームやエンターテインメント分野での仮想現実(VR)の可能性についてであった。VRヘッドセットは外界を完全に遮断することで、ユーザーが例えばロボットや宇宙人との戦いに没頭できるようにする。しかし、Microsoftはビジネス分野でのAR活用の可能性に、より大きな関心を向けている。ビジネス分野はゲームやエンターテインメントほど刺激的ではないかもしれないが、成功に近づく道としては勝っているかもしれない。
例えば、エレベータは巨大な事業分野である。エレベータ整備の世界市場は年間440億ドル以上の規模と考えられている。そして、世界の1200万台のエレベータが毎日10億人以上の移動を助けており、エレベータは地球上で最も利用されている移動手段となっている。
thyssenkruppのエレベータイノベーションセンターでゼネラルマネージャーを務めるJavier Sesma Sanchez氏は米ZDNetに対して、次のように語った。「私たちはエレベータが故障するまで、それが日々の生活においてどれほど重要かということに決して気付かない」
しかし、そのエレベータはいつも稼働しているわけではない。エレベータは世界中で毎年1億8000万時間のダウンタイムが発生している。つまり、あなたの利用するエレベータも年に3~5回、使えない状態になっている可能性があるということだ。
技術者が現場で整備を行うとき、必要な情報がそこにないことや、エレベータの修理に必要なプロセスを教えてもらう必要が生じることもあるかもしれない。しかし、エレベータを修理するときに、エンジニアは依然としてスマートフォンやノートPCを使用して情報にアクセスし、「電話を耳に当てながら両手でエレベータを修理しようとしていた」とSanchez氏は言う。
今から3年ほど前、同社はMicrosoftとの協力の下、エレベータをクラウドに接続して、エレベータに障害が発生する前に予測することで、ダウンタイムを削減する取り組みに着手した。「当社は世界中のあらゆるエレベータに技術者を配置しているわけではない」(Sanchez氏)
thyssenkruppがHoloLensを採用したのは、同ヘッドセットを使えば、エンジニアが修理に関するデータにハンズフリーでアクセスできるからだ。さらに、エンジニアがSkype経由でほかの専門家の助けを求められることも決め手となった。専門家はHoloLensのカメラを通して、エンジニアが見ているのと同じ映像を見ることができる。
「われわれがHoloLensに興味を持ったのは、まず、それが独立した完全な『Windows 10』コンピュータであり、内蔵のアプリケーションを使用できるからだ。Skype通話もできる。HoloLensはもう1つの目になってくれる」(同氏)
「われわれの最初のHoloLensの体験は、当社の技術者たちに複合現実を利用させて、ダウンタイムを削減できるようにすることだった。これは複合現実でしか実現できないことだ」(同氏)
「返ってくるフィードバックは素晴らしいものばかりだ。整備をより安全に行えるようになり、(技術者は)両手を自由に使えるようになったのだから。さらに、誰とでも効率的に連絡をとることができるために、彼らはサポートされていると感じることができる」(同氏)
トライアルでは、初めてHoloLensを使って同僚とコミュニケーションをとったエンジニアが、通常なら2時間かかり、別のエンジニアを現場に呼ばなければならないこともある障害を、20分で解決することができた。
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