何気ないツイートが脅威を招く--オンラインハラスメントが心と身体に及ぼす影響

Erin Carson (CNET News) 翻訳校正: 川村インターナショナル2017年07月12日 07時30分

 Evette Dionne氏は、虚空に向かってツイートしたつもりだった。その虚空がツイートを返してきた。

 27歳のジャーナリストであるDionne氏は、2016年にMuhammad Aliが亡くなったとき、ボクシング界の伝説であり文化の象徴だったAliが黒人社会に与えた影響について、いくつか考察をツイートした。公民権運動家でもあったAliは米国から憎まれ、タイトルを剥奪されたのではないか、と主張するツイートだ。Aliは米国における人種差別について発言することをためらわず、たとえ白人社会から反発があろうと、それは変わらなかったとDionne氏は指摘する。

 Dionne氏のツイートには、個人的な回想も含まれていた。子どものころ、ニューヨークのラガーディア空港で母親と兄弟と一緒にAliに会ったときの興奮をつづったものだ。「母はほとんど独り言のように、『Muhammad Aliかしら』とささやいた。Aliは母のところまで来て、手を握って頬にキスしてくれた」。Dionne氏は、そうツイートした。

 それから30分もしないうちに、Dionne氏のツイートは一気に広まった。ツイートのスクリーンショットがFacebookにアップロードされ、そこでも拡散していく。Dionne氏は4日間にわたり、悪意のこもった侮辱を受け続けることになった。人種差別主義者でうそつきというレッテルを貼られ、「でたらめなネタを書くのはやめろ」と言われる。同氏をクビにするよう求める電子メールを上司に送る者までいた。

 Dionne氏はオンラインハラスメントと無縁だったわけではない。人種やジェンダー、社会階級について記事を書いており、フェミニストのメディア「Bitch Media」でシニアエディターを務めている。この分野には敵意を持った人たちが寄ってくるものだが、今回はそれまでとまったく別のケースのように感じられた。

 「古傷が開いてしまった」。集中砲火のように浴びた非難について、Dionne氏は筆者にこう語った。Aliの一件では「精神的に打ちのめされた」という。

 もちろん、ネット上で憎悪をぶつけられているのは、Dionne氏だけではない。ネット上の憎悪は、あらゆるところにある。ネット上の大衆が玄関先まで押し寄せるわけではないとしても、そうした憎悪にさらされるのは危険なことだ。四方八方から攻撃され続けると、心理的な反応を引き起こし、それが身体的な反応を引き起こすことになる。

 現実での攻撃とまったく同じように、オンラインの憎悪も「闘争か逃走か」という身体的な反応を促す。脅威に直面したときに必要な臨時のエネルギーに身体に与えようとして、化学物質が大量に分泌されるのだ。そうした化学物質の1つがコルチゾールで、自己防衛のためのエネルギーが必要になりそうなとき、消化など特定の生体機能を抑制する働きがある。

 闘争逃走反応は、例えばクマから逃げるために木に登るといった場合には素晴らしい機能を果たす。だが、体内では少量のコルチゾールが短時間しか分泌されないのには理由がある。コルチゾールやアドレナリンのような闘争逃走反応ホルモンの影響を長く受けていると、睡眠障害、体重増加、消化不良、不安などの症状が現れることがあるからだ。やはりコルチゾールは、極限状況に置かれたときに通常の身体機能を一時的に停止させる手段なのだ。

 メディアテクノロジとその影響を研究している非営利組織Media Psychology Research Centerでディレクターを務めるPamela Rutledge氏によると、オンラインで憎しみをぶつけられるたびに、体内で少量のコルチゾールが分泌されるという。荒らしのターゲットになれば、コルチゾールを出しっぱなしになる可能性もあるわけだ。

 「人間の身体は、仮想環境に対しても現実の場合と同じように反応するため、同じようなトラウマを感じるか可能性がある」とRutledge氏は述べる。オンラインハラスメントによって身体的な安全も脅かされる場合は、苦痛が倍増するだろう。


オンラインハラスメントにより身体も影響を受ける可能性がある。
提供:NurPhoto

 オンラインハラスメントはインターネットのごく一部でしか起きていないと思う人がいるかもしれないが、調査結果はそうではないことを示している。

 Pew Research Centerが2014年に発表した調査によると、インターネットを利用する米国の成人のうち、73%がオンラインハラスメントを目撃したことがあり、40%は自身で経験しているという。具体的には、中傷、セクシャルハラスメント、身体的な脅威などだ。2016年のData & Societyの調べでは、米国のユーザーの4分の1以上が、ハラスメントを警戒してオンラインで言いたいことを我慢していると回答した。

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