働き方改革の本質は労働時間の短縮ではない--三井不動産に聞くオフィスのあり方 - (page 3)

“法人契約によるシェアオフィス”というビジネスモデルがもたらすもの

--WORKSTYLINGが法人契約という形態をとっている狙いは、働き方に対する意識変革を企業にも促していく狙いがあると思いますが、ビジネス面ではどのような狙いがあるのでしょうか。

川路氏:法人向けシェアオフィス領域で満足いく商品・サービスがほとんどなかったのが大きいですが、企業に選択肢を提供するのは、本業のビル事業を補完することになるのではないかと思うのです。

 例えば、伸び盛りの企業で増床ニーズがあるけれども、同じビルでの増床が難しい場合。それでもスピーディに人を増やさなきゃいけないときに、今まででしたら泣く泣くその慣れた環境を捨てて、新たに床を増やせるビルに移転コストを抱えながら引っ越さねばならなかった。ところがWORKSTYLRINGを上手く利用することで、移転せずに営業部門など在席時間の少ないスタッフの床を合理化しながら人数を増やすといったオフィス戦略が可能になると思っています。私たちは働き方とともに、発想を転換しなければならないとも思うのです。


WORKSTYLRINGのビジネス面の狙いを語る川路氏

三浦氏:いま、世の中は“可変性の高いもの”が評価される時代になっているのではないかと思います。例えば、ファストファッションを活用してフレッシュな衣類を短期間で取り替えていったり、デジタルデバイスや眼鏡などもそうですよね。その中で最も可変性が低いはずのオフィスが変わろうとしているというのが、私の見立てです。賃貸や購入で20年1つのオフィスで働く選択をするよりも、シェアオフィスを活用してさまざまな場所で自由に働ける選択をしたほうが、よっぽど合理的なのではないかと。

 企業にとっては、将来何が起きるかわからない。2021年に世の中がどうなっているかは誰にもわからない。そのような状況で、最も合理性が高く可変性を持った労働プラットフォームが、法人契約型で多拠点のシェアオフィスなのではないでしょうか。それをベンチャー企業ではなく業界最大手の三井不動産がやることに、大きな意味があると思います。

情報漏えいリスクを抱える社外会議をなくしたい

--では具体的に、WORKSTYLINGはどのようなビジネスパーソンの利活用を想定しているのでしょうか。

川路氏:代表的なのは、外回りをしている営業スタッフのスキマ時間の活用ですね。ただ、そこで止まってしまっては、WORKSTYLINGは大きくならないと感じています。例えば、保育園に子どもを送り届けたお母さんが近くのWORKSTYLINGで仕事をして、通勤ラッシュを見送ってから時差通勤をするという利用シーンや、週に1度会計士に会いに行かなければならない財務スタッフが、帰社に必要な時間を出先のWORKSTYLINGでの仕事に充てて直帰するという利用シーンは有効なのではないかと思います。

 またビジネスパーソンの中には、クライアント企業に提案に行ったあとで、ビルの軒先や近隣のカフェなどで簡易的な打合せをすることもあるかもしれません。本来であればほかには見せられないような資料や外では口にしてはいけない情報をやりとりしている可能性がある。これも守秘義務の観点からあまり良いとは言えませんよね。企業の管理部門の方々は非常に危ないと感じておられるシーンです。そうした社外会議のニーズは非常に多いのではないかと思います。

三浦氏:そうしたニーズは啓蒙していかなければならないですね。社外のオープンな場所で守秘義務のある資料を広げるなど、本来であればありえない話なのです。



WORKSTYLING汐留の様子。オープンなワークスペース、個室、会議室などを備える

--大手企業などがこのような施設を活用する場合には、社内ネットワークの整備やシステムの最適化などインフラ整備が必要だと思いますが、導入企業の動きはどうでしょうか。

川路氏:当初は大手通信会社と連携してシンクライアントやVPNなどによって社外業務を効率化する仕組みの導入を支援するという構想もあったのですが、実際のところシェアオフィスを導入した企業はその後の動きが早く、シェアオフィスを社員に使わせると決めたらVPNの導入などのインフラ整備が一気に進むというケースも多いです。企業の業務システムもクラウド化が進んでおり、そうした環境も背景にあるのではないかとも思います。

--4月にオープンされてから、これまでの反響はいかがでしょうか。

川路氏:これまでに数百件の問い合わせをいただいていて、日本を代表するような大手企業や官公庁、大学などの教育機関などからも問い合わせを受けています。明日から使いたいという声もあれば数年後の導入を目指したいという声もあったり、1万人の社員に利用させたいという声があれば数人の会社で利用したいという声もあったり。本当に多種多様のニーズを肌で感じ、反響の大きさを実感しています。

 また利用者の方からは、会社のオフィスから離れて自分のペースで仕事ができることのメリットを挙げる声や、従量課金制のためコスト意識をもって仕事に集中できるようになった、時間を意識しながら会議ができるようになった、他社の人の目やコンシェルジュの目があるので無意識にきちんとするようになったといった声が挙がっています。仕事に対するコスト意識や集中力が生まれている点はとても良い効果なのではないかと思います。

--オープン後の利用動向として、これからどのようなデータが取っていくのでしょうか。

三浦氏:実はこのWORKSTYLINGは有人コンシェルジュを配置していて、その観察記録を蓄積しています。また、利用にはスマートフォンが必要なので、どの会社が何時間何人で利用して、何をして帰っていったかがすべてわかるようになっています。例えば、メーカーであればどのような利用傾向があるのかという分析が容易になっているのが特徴です。ユーザーの利用データが蓄積されていけば、きっといろんな発見があるはずです。

川路氏:またWORKSTYLINGでは利用者にアンケートを取っていて、例えば週に100回ほど利用されている会議室でどんな文具が必要かなどのアンケートをとり、些細なことでも声をひろうようにしています。多種多様な会社の多種多様な人材に意見を聞ける強さは、これから活かしていきたいですね。こうしたデータ取りがWORKSTYLINGのサービスの質を向上させるカギになると考えています。

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