ウェアラブルコミュニケーションデバイス「BONX Grip(ボンクスグリップ)」を開発・販売するスタートアップ企業であるBONXは5月、2億円の資金調達を実施して事業を拡大すると発表した。今後は産学連携などによって新製品の開発に取り組むほか、製品の海外展開も予定しているという。
BONX Gripは、イヤホン型デバイスとスマートフォンアプリを組み合わせてトランシーバのように使用できる音声コミュニケーションデバイス。通信ネットワークが利用できる環境であれば遠距離や高速移動中といった従来では困難だった状況での通話が可能。また最大10人まで同時接続してグループ会話ができるほか、発話を認識して話すだけで自動的に通話を開始するハンズフリーモードを搭載している。2015年にクラウドファンディングによって2000万円以上の資金を調達し、製品化を実現した。
このBONX Gripは、生活防水や耐衝撃性、デジタルノイズキャンセリング技術などを搭載し、スポーツやアウトドアアクティビティでの活用されることを想定しているという。では、トップアスリートはこのBONX Gripにどのような可能性を感じているのだろうか。BONXの代表取締役CEOである宮坂貴大氏と、陸上400mハードルの元オリンピック代表で現在はコメンテーター・指導者として活躍する為末大氏の対談を取材した。モデレーターは、The Breakthrough Company GOのクリエイティブディレクターである三浦崇宏氏。
――まずはBONX Gripが生まれた背景について教えていただけますか。
宮坂氏:最初のきっかけは私が学生時代から熱心に取り組んでいたスノーボードです。不便を解消してもっと楽しむことに集中したいという気持ちを最初のモチベーションにBONX Gripを考案しました。スキー場で滑っていて仲間を見失ってしまったとき、仲間の現在位置を確認しようとスマートフォンを出して電話をすると面倒なので、そうした連絡の取り合いを滑りながらできたらという発想から始まったのです。
開発を進めてみると、発話を検知して(使用者が操作をせずに)通話を始める技術が実装された段階で、新しいコミュニケーションのスタイルが生まれました。今まで伝えられなかった感覚や、伝えるのが面倒な状況が簡単に伝えられるようになり、コミュニケーションが楽しくなる。つまり、利便性というのは楽しさにつながるというのが大きな発見でした。そしてそれはスノーボードのみならず、さまざまなスポーツやアクティビティにも広がると考えました。実際、BONX Gripはスポーツだけでなく、サバイバルゲームを楽しむ人やドローンを飛ばす人のトランシーバとして活用されてもいます。
――為末さんは、実際にBONX Gripを使ってみていかがでしたか。
為末氏:印象的だったのは、子どもの短距離走を指導していたときのことです。最初は一番遅かった子どもに大きな声で指導をしていたのですが、よく考えると“(子どもの名誉のために)これは良くないな”と反省したのです。人間のコミュニケーションには多くの人に向けて発信するパブリックなものと、クローズドなマンツーマンのものがあると思うのですが、スポーツをしているときは、いちいち使い分けることができません。その点、BONX Gripは2人で利用すればマンツーマンで話せるので、その点は便利だと感じました。
また、(取材が行われている)ここはパラリンピック選手の施設で、ブラインド(視覚障害)の選手たちが練習していますが、ブラインドの選手への声かけはとても難しい。選手へ声を掛けて指示を出さなければいけない状況にも関わらず、自分自身の手が塞がっているときなどがあるからです。しかし、そんな時でもBONX Gripがあれば、ハンズフリーのトランシーバと同じように活用できて、とても便利でしたね。こうしたコミュニケーションを距離が離れていてもできるというのが大きいと思います。
あとは、全然違うシチュエーションのもの同士がつながるという可能性も感じました。例えば、僕がスノーボードで滑っているときに、妻がまったく違う場所にいても、コミュニケーションが生まれるというのは面白い体験だなと思います。
宮坂氏:まさに為末さんがおっしゃった状況を、ゴールデンウィークに四万十川をサイクリングしたときに経験しました。私が四万十川をサイクリングしているときに、妻は近くの街で買い物。サイクリングの最後にピックアップしてもらわないといけなかったので、2人でBONX Gripを装着して、「そろそろ今ここだよ」とか「ひとりで寂しい」とか「風がまじつえー」といったやりとりを買い物している妻と、四万十川をサイクリングしている私でずっと会話していました。日常と非日常とがシームレスにつながっている感覚はとても面白かったです。
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