――スポーツ以外の領域では、どのような活用シーンを想定していますか。
宮坂氏:BONX Gripによって遠隔コミュニケーションのコストが下がり、コミュニケーションそのものが増えていくのではないかと思います。例えば、スマートフォンとインスタグラムは写真によるコミュニケーションのコストを大きく下げて、コミュニケーションの機会を増やしましたよね。私たちが挑戦しているのは言葉・音声によるコミュニケーションコストを下げて、機会を増やすということ。まだ十分ではありませんが、まずは音声コミュニケーションの必然性が高いスポーツの競技中やビジネスの業務中に導入してもらいながら、裾野を広げていければいいですね。
為末氏:スポーツでも、全く違う競技のアスリートがBONX Gripを使うと面白いコミュニケーションが生まれるかもしれませんね。例えば、トラックの中で数百メートル離れているやり投げ、幅跳び、ハードルをやっている選手が全員BONX Gripを着けていたら、どんな会話が生まれるのか気になりますよね
――会話をしながら、何かをすることの楽しさってありますよね。それはちょっと試してみたいですね。
宮坂氏:面白いですね。為末さんがおっしゃっているのは、やり投げをやっている選手に対するコーチングを、ハードルの選手が聞いているというシチュエーションになるのでしょうか。
為末氏:宮坂さんがおっしゃる、コミュニケーションのコストが下がるということは、意図的に聞く状況よりも、自然に聞こえている状況が増えてくるということだと思います。聞こえているという状況によって生み出されるものって何だろうって考えたときに、自分とは関係のないことにインスパイアされて新しいものが生まれてくるというのはあったら面白いなと思いますね。
もっと極端なことを言うと、どこかで料理をしている人と、陸上指導している人と、どこかでミーティングしている人が、同じBONX Gripでつながっていたら、何が起きるのだろうと考えるのも面白いです。全然違う経験をして、全然違う内容が耳に入るような状況の人がリアルタイムでつながることで、どんな会話生まれるのかなというイメージですね。
――最後に、今後の展開について教えてください。
為末氏:スポーツの語源にラテン語の「デポルターレ」という言葉があるのですが、スポーツというのは限られた空間で勝ち負けを競うもので、徐々に上手くなることを前提にしています。そこからもう少し広い意味では、エクササイズとか遊びも含まれた運動を楽しむ世界があって、さらに広い概念として、ストレスを発散するとか表現をするとか解放されるという世界があり、それを僕はデポルターレと解釈しています。
僕は、デポルターレの領域が広がることと、幸福度が高くなるということは密接に関係していると思っています。さらに、テクノロジが進化していくことで、誰かが表現するというデポルターレをみんなが楽しむという“つながる世界”が広がっていくことにも、とても関心を持っています。デポルターレとテクノロジが結び付くことで、何ができるのか。いま、小さな会社を立ち上げて義足の開発などもやっているのですが、これからももっと社会の中にいろいろなデポルターレを生み出していきたいですね。その意味で、世の中に自由なコミュニケーションや新たな遊びを生み出していこうとしているBONX Gripのコンセプトには共感しています。
宮坂氏:為末さんの「もっと社会にデポルターレを」というビジョンは、私たちの「世界を遊び場に」というビジョンにと通じる部分が大きくて、同志を見つけた気持ちになりました。これから私たちは、BONX Gripが持つ可能性をユーザーにどんどん引き出してもらいながら、テクノロジを進化させて、使いやすさや利用障壁をどんどん下げていきたいと思います。為末さんとは、同じビジョンをグローバルで実現するために、新しい取り組みができたらいいですね。
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