2人に1人は何らかのがんにかかるといわれている。現在はがんの治療も多様化し、通院しながら治療する人も増えてきているという。しかし、治療開始後の労働生産性やQOLの指標との相関などは明らかになっていない。
国立研究開発法人国立がん研究センターは5月26日、がん患者の労働生産性を含めた療養状況の実態を把握し、今後の療養の向上に向けて治療開発における指標を構築するための研究を開始すると発表した。
研究には、iPhoneアプリ「がんコル(QOL)」を使用する。国立がん研究センターが開発したもので、App Storeから無料でダウンロードできる。
患者がアプリを使って定期的にアンケートに答えることで、がん治療と仕事のパフォーマンスなど、患者の生活の質について実態を明らかにし、療養環境を改善する新たな指標構築を目指す。
質問は、毎日2分程度、6つの質問に回答すると毎日の体調を記録できる。さらに、毎週、2つの質問に回答すると週単位の労働状況を記録でき、4週ごとに9個の質問に回答すると、月単位の労働状況とパフォーマンスを記録できる。
質問には、グローバルで使用されている評価ツールを使用。日々の体調には、生活の質の尺度として幅広く用いられている「EQ-5D-5L質問票」を使用する。2週、4週の質問は、世界保健機関(WHO)が公開している「健康と労働パフォーマンスに関する質問紙(WHO-HPQ:短縮版)」を用いて評価する。
質問に答えることで、アプリ参加者の同じような状態(同年代、同疾患など)の人のパフォーマンスが見られるしくみも入れ込んだ。
治療中の副作用は、患者さん自身による主観的評価として記録するため、米国国立がん研究所より発行されたPRO-CTCAE日本語版を使用。このPTO-CTCAEは、がんの臨床試験において、通常用いられる有害事象の評価方法に適応し、自己評価に基づく有害事象を測定するためのツールだとしている。
国立がん研究センターは、この評価を数値化したデータを収集して解析し、研究に活用する。なお、収集データに個人情報は含まない。
日本では、毎年100万人が新たにがんと診断されており、そのうち約3分の1は就労世代(65歳以下の成人)という。がんの治療と就労の両立は、社会的な課題でもある。
診断されてから治療を開始し、化学療法や支持緩和ケア、手術などを行う中で、仕事のパフォーマンスはどう変わるのかを調査したデータはまだ少ない。
このアプリを考案した国立がん研究センター中央病院 肝胆膵内科/先端医療科の近藤俊輔医師は、「外国でも研究しているが十分とは言えないし、経過がわかっているわけではない。アプリを使うことで、いろいろな治療の傾向が分かれば、ひとつ大きな情報」と説明する。
患者自らがツールを用いて自己評価し、結果を主治医と共有することで、治療にも役立てられるという。「(一般的に医師が診るのは)薬が効いたのか、効かなかったか。副作用に関して自宅での体調も聞くようにしているが、不十分。薬の量を減らした方がいいのか、投与の期間を変えるべきか。そもそもその治療に意義があるのか。新薬の開発で求められるのは安全性と有効性だが、それは本当に患者を幸せにしているのか、多角的に見なくてはいけない」と提言する。
また、「労働ができているかどうかは生活の質(QOL)の指標なのではないか。(調査によって)いい治療ができているのか、その指標にしたい。がんと就労の問題は社会でも取り上げられている。周りはどうサポートしたらいいのか。どういう状況ならその治療を受けてよかったと言えるのかを投げかけるものになればいい」と語った。
なお、がんコルは、Appleが医療分野の研究者向けに提供している医学研究のためのAPI「ResearchKit」を用いて作られている。
アップルによれば、日本は米国に続いてResearchKitを使用したアプリを多く公開している国だという。「アップルがテンプレートを用意することで、デザインやプログラミングに時間をとられず、短い工数で開発できる。見た目的にも統一感のあるアプリケーションに仕上がる」と説明した。
ResearchKitを用いて作られたものとしては、東京大学が糖尿病患者や予備軍を対象にした調査アプリ「GlucoNote」を出しているほか、順天堂大学はぜんそくやパーキンソン病、インフルエンザなど11の調査アプリがある。
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