Microsoftは、クリエイティブな未来の主導権をAppleとAdobeから奪い取ったのではないか。筆者にはそう思える。
「Windows 10」の直近のアップデート2つ(第1弾の「Creators Update」と、2017年秋のリリース予定が発表されたばかりの「Fall Creators Update」)や、複合現実とコンピューティング関連ハードウェアへの積極的な取り組みを併せて考えると、Windowsはクリエイティブな仕事とクロスデバイスの生産性において頼れるプラットフォームになりつつある。
「残念ながらAppleとAdobeは終わりだ」などと言っているわけではない。そんなことは考えてもいない。Appleが作っている人気のスマートフォンやタブレットは、誰もが耳にしたことがあるだろう。それに、6月に開催の開発者会議Worldwide Developers Conference(WWDC)に向けてAppleが何を用意しているのかは明らかになっておらず、皆を喜ばせてくれるような秘密のプロジェクトがあるかもしれない(一部では「MacBook」シリーズのアップデートを発表するとも報じられている)。
一方、Adobeは大幅な多角化を進めている。ユーザーを追跡して段階的にコミュニケーションを深めるとともに、ウェブ上に顧客が残した形跡を分析できるマーケター向けツールが、同社の事業で大きな割合を占めるようになっている(「Adobe Experience Cloud」)。もちろん主力は、Adobeと言えば誰もが連想する「Photoshop」など、「Adobe Creative Cloud」のアプリケーションだ。
また、Adobeは最高クラスのプロフェッショナル向け編集ツールも提供している。しかし、AdobeはOSの進化から恩恵を受けてはいるが、どちらかと言えばマイナスも大きい。Microsoftは、Adobeが目指すべきだった形でクリエイティブなプロセスを発展させている。Adobeにおそらくそれができないのは、ユーザーが過去のインターフェースにとらわれているため、そしてビジネスモデルのせいでプロ以外がツールに手を出しにくいためだ。
こうした変化のすべてが、Microsoftとユーザーの双方にメリットがあると言うつもりはない。Microsoftの最近の開発活動全般で中核になっているのは、ユーザーから収集しているデータだ(「Microsoft Graph」)。同社はユーザープライバシーの消滅を間違いなく早めていると思う(プライバシーポリシーがどう改訂されるのか見ものだ)。
Microsoftは全力を尽くして、Appleのように壁で囲まれた世界を築こうとしている。ただし、取り込もうとしている範囲ははるかに広大だ。その壁が目に見えないとしたら、壁の存在は問題になるのだろうか。筆者以外の多くの人には、問題にならないのではないか。
だが、AppleとAdobeは、意図してか意図せずにか、多くの重要な面でMicrosoftに道を譲っているように思える。
Microsoftでは「Xbox」プラットフォームが好調で、光、深み、モーションフィジックスといったゲームデザインの観点をインターフェースツールに持ち込めるようになり、新しい「Fluent Design System」が生まれた。これにより、もっと使いやく魅力的なインターフェースが登場するはずだ。Appleがインターフェースデザインを大きく変えたのは、ずいぶん前のことになってしまった。
このところ「macOS」で起きた大きな進化は、「Siri」など、デスクトップとモバイル間のクロスプラットフォーム機能が中心だった。MicrosoftはこれをFall Creators Updateで最大限に模倣している。だが、模倣だけに終わることなく、Appleが公然と無視してきた領域にまで積極的に踏み込んでいる。その1つが複合現実(仮想現実と拡張現実を組み合わせたもの)だ。
「Windows Mixed Reality」の開発キットは先行予約を受け付け中(現在は米国とカナダのみ)で、2017年夏の出荷が予定されている。比較的安価なヘッドセットパッケージも冬のホリデーシーズンに間に合うように出荷されることになっており、これには仮想環境でモノを扱うために新設計されたモーションコントローラが同梱される。仮にAppleがWWDCで同様のツールを発表するとしても、ハードウェアとソフトウェアがすぐにリリースされることはないだろう。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」