沖縄でIT産業と聞くと、「コールセンター」を思い浮かべる人は多いのではないだろうか。事実、沖縄総合事務局によれば、沖縄におけるIT産業関連の全雇用の約7割にあたる約1万7000人(76社、2015年1月時点)がコールセンターで働いており、沖縄経済を支える大きな柱の1つとなっている。その一方で、クレーム対応によるストレスや低賃金などを理由にした離職も多く、1年間を通した離職率が約4割にも及ぶ課題も抱えているという。
こうしたコールセンターに依存する沖縄の状況を変えるために、ITを活用して新たなムーブメントを起こそうとしているのが沖縄市だ。太鼓を叩きながら街中を練り歩く盆踊り「エイサー」をはじめとした伝統芸能などを観光資源とする同市は、那覇市などのリゾート地と異なり、内陸であることから観光客に“素通り”されてしまうことが多いのだという。あわせて、郊外に商業施設なども増えたことで、中心市街地の衰退化が進んでいると沖縄市役所 経済文化部 部長の上里幸俊氏は危機感を募らせる。
沖縄市ではこの状況を打破するために、国から一括交付金が交付されるようになった2012年から、積極的にIT活用を進めている。観光客向けに中心街や観光地、商店街などにWi-Fi環境を整備。また、観光ポータルサイトを構築して現地の情報を発信しているという。
また、沖縄市をはじめ沖縄県は近年ソフトウェア開発や通信関連など、コールセンター以外の企業誘致にも力を入れている。2002年に県全体で52社だったIT企業数は、2015年には387社に増加。雇用も4899人から2万6627人まで増えた。これにともない、IT関連の生産額も2004年の2200億円から2015年は4099億円と倍近くに拡大しており、「(沖縄全体の)観光産業の6000億円強に迫る勢い」(上里氏)だという。
しかし、それでも沖縄県民の所得や失業率が大きく変わるまでには至っていないと上里氏は話す。沖縄県では現在も雇用のミスマッチが原因で失業率が高く、子育てや介護をしながら仕事ができる環境整備や人材の育成といった課題も解決できていないためだ。
また、沖縄県は市町村と連携してIT企業や製造業の誘致に精力的に取り組んだことで大きな成果を上げてきたが、その一方で企業の人材需要に専門人材の育成が追いついていないという新たな課題も生まれているそうだ。そのため、従来とは異なる形で沖縄の経済を発展させる方法を、3年ほど前から模索していたという。
その中で上里氏は、沖縄の大学の卒業生(HanaHana Worksの中村まこと氏、現STARTUP CAFE KOZA代表)が北九州から2~3カ月おきに沖縄を訪れて、スタートアップに関する勉強会を開いていることを知り、実際に自身でも参加してみたという。「これが面白くて、何度か参加するうちに東京や九州の企業とのつながりもできた。沖縄でもスタートアップ支援やIT人材の育成ができないかと考えた」(上里氏)。
これをきっかけにして、2016年8月に沖縄市のコザにオープンしたのが、起業家育成を支援する施設「STARTUP CAFE KOZA(スタートアップカフェ コザ)」だ。沖縄におけるIT人材育成やリモートワークがしやすくなる環境整備に向けた取り組みの第1弾となる。福岡にスタートアップカフェを立ち上げた、福岡市やTSUTAYA協力のもと、沖縄市の事業として開設したのだという。
スタートアップカフェ コザでは、無料(一部有料)のコワーキングスペースが設けられているほか、コンシェルジュから起業についてのアドバイスを受けたり、相談内容に応じて専門家を紹介してもらったりすることが可能。また、3Dプリンタやレーザーカッターなどの最新機材を使ってものづくりをすることもできる。東京や北九州の企業やベンチャーキャピタルとも連携しており、これまでに日本マイクロソフトやBASE、CAMPFIREなどを招聘した勉強会や講座を開いているという。
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