AIが「記事」を書く時代--クエリーアイと西日本新聞が語る“文学”の可能性 - (page 3)

人工知能の普及に立ちはだかる“権利”という大きな課題

 今後、人工知能の技術革新と普及の拡大によって導入コストが下がり、企業の業務効率化やメディアの記事制作などへの活用が現実味を帯びてきたとすると、次に考えなければならないのが権利問題だ。水野氏が挑戦した小説の創作活動を例に考えると、人工知能に小説を書かせるためにはあらかじめ知識となる文献=著作物をインプットしなければ、文章のアウトプットはできない。人工知能に学習させるためには目的はどうあれ大量のデータや著作物を必要とするが、この点について水野氏はどう考えたのだろうか。

 「人工知能に学習させる文献には、ネット上に公開されているもの、著作権の切れた書籍、著作権が存在している書籍などさまざまなものがあるが、人工知能の学習と文章創作は、私たちが多くの文章に触れて創作活動をすることと同じだと考えている。著作権法47条の7には『情報解析を行うことを目的とする場合には、…中略…記録媒体への記録又は翻案(これにより創作した二次的著作物の記録を含む)を行うことができる』と規定されている。人工知能の学習という統計処理のためであれば、著作物は許諾なく利用できるというのが私たちの理解だ」と説明。

 しかし、こうして人工知能が学習した結果アウトプットされた著作物については、大きな課題が残る。「人工知能が文章を創作した結果、誰かの著作物の一部がフレーズとしてアウトプットされる可能性は否定できない。それを複製とみなすかは難しい問題だ」と水野氏は語る。

 現行著作権法では、著作物の統計処理=機械学習をした人工知能によって創作された文章にまつわる著作権について定義がなされておらず、この課題に対する答えはない。法改正、ガイドラインの策定など制度設計が待たれるところだ。なお水野氏によると、内閣府では人工知能が学習するデータの扱い、学習した結果できあがったモデルデータの扱い、学習した人工知能がアウトプットした成果物の扱いについて議論がされているという。

 「現行法では著作物を人工知能に学習させることもできれば、そこから新たに文章を生み出すこともできる。この仕組みを悪用すると“人工知能が学習した結果”として著作物のコピーを作りだす“権利ロンダリング”のようなこともできる可能性がある。また、人工知能を使って文章を作った場合、その権利はシステムを作った側にあるのか、またシステムを使った側にあるのか。この点も明確な定義はない。こうした権利をめぐる課題の議論と技術の進歩が両輪で進んでいくのではないか」(水野氏)。


人工知能が文章を書く時代がきたら、人は何をするのか

 このように、人工知能を巡っては、技術の進歩、コストパフォーマンス、権利処理問題という3つの側面から考えていく必要がある。一方で「人工知能が文章を書く」という時代はすぐそこまできているという現実も見えてきた。ではそのとき、人間は何をするのだろうか。この質問に対して、井上氏も水野氏も共通して語ったのは、ものごとに対して“問い”を持つことができるのは人間だけということだ。

 水野氏は人工知能を作る立場から、「何が重要か、何が問題かといった課題設定は人間にしかできないこと。“問うべきこと”は人間にしか決めることができない。人工知能にデータを処理させたくても、最初に人間が課題設定をしなければ先に進まない」とコメント。また、井上氏は記者の立場から「コンテンツ制作の省力化という点では人工知能が活用できる一方で、成果物のクオリティを追求したい場合には人工知能は不向きなのではないか。“なぜ?”という問いかけの連続をまとめた記事は人間にしか書くことができない」と語った。

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