富士通は2月22日に開催した「CNET Japan Live 2017」で、同社のAI「FUJITSU Human Centric Ai Zinrai」(ジンライ)を用いた多くの活用例を紹介した。今後のビジネスにおいて「AIそのものが武器になる」と語っている。
富士通はデジタル技術が可能にする価値提供サイクルを核に、変化するITビジネスのフラグシップを目指すと語るのは、同社執行役員 菊田志向氏。収集したビッグデータを分析することで新たな価値に変換し、AI(人工知能)やロボティックスの自律的な制御に活用した結果を人や環境、モノにつなげていく。そしてそこから得たビッグデータを……と螺旋(らせん)を描くようなスパイラルアップし続ける形を事業モデルの要と捉えているという。
すでに、あいおいニッセイ同和損害保険では、自動車保険フリート契約者(所有・使用する自動車が10台以上の契約者)向けに安全運転の助言や事故多発地帯情報を通知するサービスを提供。これは、位置情報クラウドサービス「SPATIOWL(スペシオウル)」による安全運転支援サービスと、車載ドライブレコーダーを組み合わせて、運転手のハンドル操作やブレーキタイミングといった特性データを収集、解析する仕組みを活用し実現したもの。川崎市もSPATIOWLを活用し、スマートフォンから得られる位置情報と照らし合わせて、施設情報や避難施設などを取得するサービスを展開中だ。
ウィラーエクスプレスジャパンとは、運転手の脈拍データを計測するウェアラブルセンサー「FEELythm(フィーリズム)」で取得し、クラウド上で分析した結果を基に運行管理者へは管理情報として、運転手へは音声・振動で通知する。「ドライバーの居眠りなどによる事故リスクを軽減する」(菊田氏)。さらに上海儀電では富士通のインテリジェントダッシュボードで機器の故障予知など工場全体を可視化。従来は約10分の時間を要した可視化をリアルタイム化している。
このように多方面で利用シーンが広がる富士通のクラウドビジネスだが、その核となるのが、「FUJITSU Digital Business Platform MetaArc(メタアーク)」だ。
富士通が2015年9月にデジタルビジネス・プラットフォームとして提供を開始したクラウドソリューションだが、すでに前述した事例を生み出している。だが、今回の主役はMetaArcではない。顧客のSoR(System of Record: 従来型トランザクション処理を担う基幹システム群)とSoE(System of Engagement:最新技術を駆使したシステム群)をつなげるMetaArcのなかで、お客様のAI活用を支えるAIプラットフォーム「Zinraiプラットフォームサービス」が主役である。
同社研究所が30年以上にわたって培ってきたAIに関する知見や技術を体系化したプラットフォームとして、知覚や認識、知識化、判断・支援といった多くの機能を実現するAPIを提供するZinraiは2015年11月に発表済みだが、既に多くの実証実験を行ってきた。そして2017年4月から基本APIおよび目的別APIを合わせた30種類を順次開始する。今後のビジネスにおいて「AIそのものが武器になる」(菊田氏)という。
では、Zinraiはどんな武器になるのだろうか。その1つとして菊田氏が提示したのは自動運転補助システムだ。車載カメラから得た映像を用いた画像認識結果や、渋滞や事故といった車両を取り巻く状況を分析し、先読み情報としてドライバーに提示することで、外界認識や将来予測などに利用するソリューションである。例えば運転中に歩行者が現れた際や、路上駐車しているほかの車が動き出す気配を検知すると運転手に注意をうながし、事故を未然に防ぐという具合だ。
さらに前述したウェアラブルデバイスで実績を積んだ感覚技術などを車に搭載し、学習とノイズ除去を繰り返しつつ、運転手の判断性能を向上させるソリューションも同時に実現することを目指す。会場では実証実験結果として、他の自動車や歩行者を検知し、音声による警告を発する動画を公開。菊田氏は「まだマネキンを歩行者と誤認識し、運転手の個人差といった課題は残る」と述べつつも、加速や操舵(そうだ)といった複数の制御をAIが管理し、運転手は常に運転状況を監視しながら必要時は自身が操縦する"レベル2"に達するにはAIの力が欠かせないと語る。
Zinraiの異なる活用シーンとして、社内に散在する大量の企業内文書を専門家の知見を活かして、学習、構造化し、グラフ形式で表示するアプローチも紹介した。素早い検索を実現可能となるため、製造業や金融業からの引き合いが多いソリューションながらも、「今後どのように活用するかが課題」(菊田氏)となる。この他にも従来の方法では検出しにくい標的型攻撃などを「外れ構造学習技術」を用いて検知するサイバー攻撃検知や、AIを使った外観検査、スマート自動販売機など多数の活用シーンが進行中だという。
興味深いのが富士通のコールセンターでも利用している顧客の満足度評価システムだ。コールセンターの満足度測定は客観性が乏しくなりがちだが、発話長・間の分析や発話かぶりの分析にAIを利用し、その結果から顧客の満足・不満足をマッピングすることで顧客満足度を数値化する。さらにオペレーターへの最適な対応をいくつかの定例文から提案し、スマートフォン操作時の迷いを読み取るなどして顧客接点を共有する「感性デジタルマーケティング」と組み合わせ、新たな購買体験や顧客支援、分析データの提供実現を目指す。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス