上述した論文のサマリーにはサムスンの組織図が載っている。このオルグチャートをみると、グループ本社(Group HQ)に「企業戦略室(Corporate Strategy Office)」という会長直属の組織があり、ここがサムスン電子やSDI、あるいはSamsung Displayといった事業会社を統括する形になっていることがわかる。
この「企業戦略室」について、Vox記事には、上級幹部の人事権をもち、各社・各部門間の利害調整を図る重要な部門とある。グループ内部での足の引っ張り合いや衝突などを防ぐのもこの企業戦略室の役割で、有望な社員は幹部候補としてここに引っ張られ、グループ全体と会長個人に対する忠誠心を養ったのち、各事業会社に財務や人事の担当としてふたたび送り込まれる。そうして企業戦略室と連携しながら、各社の幹部が利己的な行為(グループ全体にとってマイナスとなる行為)に走らないよう目を光らせている(見方によってはLee一族の経営に関する親衛隊といえなくもない)。
この企業戦略室が想定通り機能するのもトップに強いリーダーがいるからで、強いリーダーがいなくなってしまえばこの統括組織も各部門の利害を代表する人間同士が争う場になりかねない……そんな懸念が指摘されている。
こうした経営に関する難しさ、組織論的な問題は、規模の大小に関係なくどこの企業にもあることかもしれない。ただ、サムスンの場合は比較的長い間、強力な個性の持ち主とされるトップに率いられていた分、そうした存在への依存度が大きいのかもしれない。父親のJay Y. Leeがかつて「デキの悪い製品を燃やして社員に対する戒めとしていた」という話などを思いだすと、そうした可能性も頭のなかに浮かんでくる。
大統領をめぐるスキャンダルで、Lee Jae-yongが有罪となるかどうかは無論まだわからないが、この先ほかにもまだいろいろな難題が待ち構えていそうにも思えてしまう。
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