部品の供給元を分散させるというのはとくに異例のことではない。特定の1社に依存することから生じるリスクの回避という利点もあれば、複数の供給元を競わせて有利な条件を引き出せるという利点もある。また単純に1社では生産能力に限りがあるから複数の企業に発注という場合も考えられる。実際に、アップルがiPhone用の「Aシリーズ」プロセッサ(SoC)や液晶ディスプレイ、無線通信モデムチップなどの調達で、そうしたやり方を採っていることも度々報じられている。
ただし、サムスンの場合は「片方の供給元がグループ内企業」という点で多少変則的である。またバッテリーだけでなく、プロセッサについてもこの変則的なやりかたが採られている(自社で開発・製造する「Exynos」とQualcomm製「Snapdragon」の併用)。このやりかたについて、Vox記事には「グループ内のサプライヤーを慢心させない」ために導入されたものとの指摘がある。
グループ内でさまざまな部品を製造しているサムスンの場合、端末の開発速度を最優先するなら、グループ会社から部品を調達したほうがよほど早い。ただ、それでは供給側が自分たちの手がける部品を取引相手の兄弟会社に「当然買ってもらえるもの」と思い込みやすい。そうした事態をさけるための仕組みとして、同社ではわざわざ「社内」と「社外」を競争させているという。
また、たとえばAppleに部品を供給している部門とスマートフォンを手がける部門との間でも、この競争のメカニズムが働いている。つまり、Appleと取引する部門の人間が自分たちの売上・利益を増やすべく努力し、結果的に良い仕事をすれば、それだけApple製品の競争力も高まる。
それに対して、端末部門でも「Appleに負けるわけにはいかない」と努力すれば、より競争力のある製品が生まれてくる……そんな好循環が生じる可能性もあるいっぽうで、競合しあうサムスンの部門間あるいは社員同士の間には自ずと潜在的な摩擦のタネも生じてしまう。
サムスンは、Galaxyスマートフォンのような最終製品と、ディスプレイや半導体のようなコンポーネントとを組み合わせたポートフォリオを組んで、それぞれの事業が補完し合う形を採っている。2016年第4四半期には、コンポーネント事業が好調で、「Galaxy Note7」リコールによる損失のあった通信端末事業のマイナス分を大いに補ったという話も報じられていた。
両者の力をうまく引き出すためにサムスンが考案したこのやり方が、実に巧妙であり、同時に危ういバランスの上に成り立つものであることも感じ取れる。
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