AIはあらゆる企業が活用できる身近な技術になった--ブレインパッドが語る

井口裕右 別井貴志 (編集部)2017年02月17日 12時27分

 人工知能(AI)は、昨年からテクノロジ業界において最も注目すべきキーワードとして、世界規模でさまざまな話題を生み出しているが、一方で事業会社からも、AIを活用して業務を効率化したり、顧客サービスの価値を向上したりしたいといった相談も増え、業務課題の解決手段としても、関心が高まっているのだという。では、そうしたニーズに対して専門家はどのようなアプローチで解決の手段を提供しているのだろうか。

 ブレインパッド ソリューション本部プロダクトサービス部の部長である熊谷誠一氏と同社の堀川亮氏にお話をお伺いした。

クラウドを活用してAIサービスの構築が素早く簡単に

――まずは、現在注目しているソリューションについてご説明ください。

ブレインパッド ソリューション本部プロダクトサービス部の部長である熊谷誠一氏 ブレインパッド ソリューション本部プロダクトサービス部の部長である熊谷誠一氏

熊谷氏:現在、クラウド基盤であるMicrosoft Azure(マイクロソフト・アジュール)、自然言語解析技術であるLUIS(Language Understanding Intelligent Service)を含めたコグニティブ製品、人とAIを対話させる基盤であるbotフレームワークなどを活用したチャットボットやロボット、ウェブサービスの提案を通じて、人口減少=労働力減少が社会課題となる中でも、どうすればサービスの質を高めることができるのかという課題に挑んでいます。

 多くの企業にとっては、「業務にAIを活用しよう」というテーマを抱えている一方で、実際にはAIの定義が曖昧になっていたり、理解できていないケースも存在するのではないでしょうか。そこで、マイクロソフト製品などさまざまな製品を組み合わせることで「こうやってAIを活用しましょう」と提案して企業の課題を解決しようというのが、私たちのスタンスです。

――具体的にはどのような活用シーンが提供されているのでしょうか。

  • 先生ボットのイメージ

熊谷氏:具体的な導入は今後進んでいく予定ですが、例えば学習塾で生徒を授業時間外にサポートする“先生ボット”というものを試験的に開発しています。生徒が先生ボットにやりたいことをチャットで話しかけると、生徒個々のニーズに合わせた対応を返してくれるという仕組みですね。また裏側では生徒の学習習熟度やテストの結果などのデータを保持しているので、先生ボットは生徒個々の学習レベルを理解した上で必要な対応をとれるのです。先生ボットが生徒の個性を理解しているという点がポイントになります。

 また、先生ボットの側から生徒に話しかけたりアドバイスしたりすることもでき、塾に来ていない期間などのフォローも可能です。このようなフォローを先生が生徒一人ひとりに個別で行うことはとても大変ですが、チャットボットが細かいフォローをすることで塾のサービス価値を向上させることが期待できるのではないでしょうか。

 こうしたシステムをゼロから構築するのは非常にハードルが高いですが、今回はマイクロソフトのLUISとbotフレームワークを活用することで、劇的に早く構築できました。AIをゼロから構築しようと思うと、会話の解析や精度のチューニング、サービスへの落とし込みが非常に大変ですが、LUISのような技術を活用することで数時間でアイデアからテスト環境を構築できるようになりました。AIを使いたいと思ったときにすぐにアクションに移せるようになりましたね。

――日本語には曖昧な表現もありますが、その曖昧さへの対応はどのように処理しているのでしょうか。

熊谷氏:曖昧さへの対応は現在も検証している段階ですが、よく使う曖昧表現は個別に学習させる機能もあります。とはいえ、曖昧さや失敗があったとしても重要なのはこのチャットボットで何ができるのかということだと考えています。AIはできる/できないで判断される世界ではなく、色々試してみる中で「こう使うとうまくいかないけれど、こう使えばとても便利」と判断できるのではないでしょうか。どうすれば便利なのかを使う側が理解すれば、「こう使えば便利」という特長を使い倒せる。特に若い方などはこのような使い方をしてくれるのではないでしょうか。

AIは、もう専門家だけのものではなくなった

――AIの登場によって、システム開発の在り方は変わってきているのでしょうか。

ブレインパッドの堀川亮氏 ブレインパッドの堀川亮氏

堀川氏:従来のシステム開発ではインプットに対して適切なアウトプットを行う機能を仕様として定義してきましたが、AIを組み込んだシステムは大量の答えの中から適切な結果を考えてアウトプットします。人間が振る舞いを作るのではなく、目的に適う結果をインプットから見つけ出します。それを可能にするのは、膨大なデータの蓄積です。対象領域のデータが多ければ多いほどデータから特徴を学習して、より目的に適う結果を出せるようになります。

 AIをバックグラウンドに持つシステムを活用する上では、AIのアウトプットをどのようなユーザーインターフェイスで提供し、ユーザー体験を創出するかが、システム開発において重要になってきます。学習塾の例でも、実現したいユーザー体験はどういったものか、それを実現するためにはどういったユーザーインターフェイスが適切かを考えた結果、電話でも、メールでもなく、サービスを提供する学生にとって身近な対話型のユーザーインタフェイスを選んでいます。

 AIの技術を活用したシステムの実現は、マイクロソフトなどクラウド上で提供されるサービスを開発基盤として活用できるようになった点、膨大なデータを活用した新たなサービスを開発できるようになったという点が、大きなポイントだと思います。

熊谷氏:大事なのは機能ありきで考えるのではなく、「こういうサービスがあったら便利だよね、おもしろいよね」と発想すること、つまり“デザイン指向”なのではないかと思います。さまざまな機能が溢れる中で、学習塾の例でも“先生と生徒のコミュニケーションはどうあるべきか?”から発想することは非常に重要で、その発想を実現するツールは揃ってきているのです。どんなことが便利なのか、どうすればユーザーがハッピーになれるのかから考えることが、クラウドの時代はとても大事ではないかと思います。

 AIの活用は統計分析など専門的な分野で語られることが多いですが、一般的な事業会社でも「こんなサービスを作りたい」というアイデアから簡単にAIを活用したサービスを生み出せる技術が整ってきていると思います。AIは、もはや専門家だけの持ち物ではないのです。

堀川氏:これまでのAI活用の取り組みは、分析技術と分析環境を備えた特殊な企業でしか扱えないものでした。しかし、分析技術や分析環境が整備されてきたことで、次はリアルタイムに生成される大量のデータを収集・蓄積するためのサービスが重要になってきました。たとえば、対話型ユーザーインターフェイスを通じてユーザーが質問するサービスにおいて、リアルタイムにデータを活用できれば、過去に分析してきたデータからは発見できなかった課題やユーザーの気づきが発見されることも期待できます。こういう観点からも、データをどうやって収集するか=ユーザーとの接点はどのようなインターフェイスを提供するかが重要になってきます。

システム会社はクライアントとソリューションを“共創”する時代に

――クライアントのニーズはどのように変化してきているのでしょうか。

熊谷氏:最近クライアントからは「一緒にサービスを考えてほしい」という相談を多く受けるようになってきました。サービスのアイデアを一緒に考え、それを実現するためにはどのようなアプローチで開発すればいいのかを、AIのみならず技術的な選択肢の中からいろいろと提案していくのです。クライアントの企画担当者と一緒に仕事する機会が増えてきましたね。

堀川氏:クライアントの多くは、「AIを使いたい」というニーズではなく、「新規顧客を獲得したい」「顧客単価をアップしたい」「顧客満足度を向上したい」といった事業課題を解決したいという思いでAIを活用できないかと考えています。その課題に私たちも向き合い、AIやデータ分析の知見・経験を活用したサービスの提供を目指しています。

 クライアントのサービス導入から考え、サービスを支えるシステム構築ではAI技術の活用にクラウドサービスを活用することで効率的に開発を進めると共に、標準サービスでカバーできない部分に対してデータサイエンティストの分析技術や知見を活かすことで、新たなサービスの開発から導入までをトータルでカバーできるのが、私たちの強みではないかと思います。

熊谷氏:かつてはどんなものを開発するかという要件はクライアント企業側にありましたが、今は大きな業務課題にどのようなソリューションで応えるかを考える必要がありますね。AIに対する世の中の期待値はとても高いと思いますね。しかしいざ実践してみると、AIでも実現できないことはあったりするのです。その“できること/できないこと”を理解しながら、AIを事業の中でどのように活用すれば結果が出せるかを考え、進化していくのではないかと思います。

堀川氏:クライアントの課題をどうすれば解決できるのかという点は、まだAIに100%任せては答えが出せないものです。有効なデータを導き出してくれるというAIの技術的な優位性を、人が業務の中でどのように活用すれば結果が出せるのかということを考えていくことが重要なのではないでしょうか。

AIソリューションが目指す2つの価値

――昔に比べてAIが製品として確立してきたとはいえ、その製品を活用してサービスを構築する上で開発会社の優位性を出すためにはデータの選択やチューニングが重要になってくるのではないかと思います。

熊谷氏:この点については色々な意見があると思いますが、クライアントの課題解決に対して、私たちがこれまで手掛けてきたデータ分析、マーケティング分析、システム開発の知見やノウハウをバックグラウンドとして活用できる点が重要なのではないかと思います。もちろん、クライアントの課題解決に教科書通りの知識を当てはめるという意味ではありません。しかし、課題解決のための仮説を立て、アイデアを実装するフェイズを進んでいくにあたって、こうした知識や経験を踏まえて考えることができるという点は強みだと言えるのではないでしょうか。

 たとえば、クライアントと課題やアイデアを共有してデータサイエンティストたちと議論すると、彼らの経験やノウハウの中からさまざまな解決案が生まれてくるのです。そこでお互いが専門的な知識を共有した上でクライアントへのフィードバックができることが、他社にはない独自性ではないかと思います。

堀川氏:一方でロボットの可能性にも期待していて、Pepperを使って色々なトライアルをしています。ロボットとコグニティブ製品を組み合わせると何ができるのかというテーマもそうですね。データ分析などの基礎的な技術を追求しながらも、そうした技術のユーザーインタフェイスとなる新しい技術を追求していく姿勢も、これからのソリューション開発において重要ではないかと考えています。

――チャットボットやロボットなどを通じてAIがコミュニケーションを創出する存在になると、UIやUXの先を考えていかなければならないと思います。クリエイティビティとエンジニアリングが両立していくべきではないでしょうか。

熊谷氏:先ほども“デザイン指向”というキーワードを挙げましたが、テクノロジを起点に考える時代はもう終わったと思います。ユーザーを起点にサービスを考えなければならないという場面は最近非常に増えていますね。

堀川氏:たとえばユーザーサポートの電話など、ユーザーの体験は従来と一切変わらずに、実は相手はAIだったというケースも今後は増えていくのではないかと思います。ユーザー体験のデザインは何も変わっていませんが、こういう“置き換え”も、AIが実現できるひとつの成功です。AI技術の導入により業務課題を改善することと、一歩先の新しい体験を生み出すこと、この2つの柱を目指してAI技術を活用していきたいと考えています。

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