2月3日、デジタルハリウッド大学大学院駿河台キャンパスにて「エンタテインメントの未来を考える会 黒川塾(四十五)」と題したトークセッションが行われた。コラムニストの黒川文雄氏が主宰、エンターテインメントの原点を見つめなおし、ポジティブに未来を考える会となっている。
今回は「クロスメディア戦略進化論2017」と題し、「妖怪ウォッチ」シリーズなどで知られるレベルファイブが仕掛けるクロスメディア戦略について、同社代表取締役社長/CEOの日野晃博氏が語った。
レベルファイブは1998年に設立。ゲーム開発会社として「ドラゴンクエストVIII」などさまざまなタイトルを手がけた後、2007年からは「レイトン教授」シリーズでパブリッシャーとしても事業を展開。数々のヒット作を生み出し、大手ゲームメーカーとして知られるようになった。
その原動力ともいえるのがクロスメディア戦略。ゲームだけではなく、アニメや映画などのエンタメメディアが同時進行で絡み合い、ひとつのIP(知的財産)を広くアピールしつつ育てていくというもの。その先駆けとして行った、サッカーをテーマとする「イナズマイレブン」シリーズでは、キャッチーな要素もちりばめ、初代作では100万本以上のヒットを記録。またプラモデルをテーマにした「ダンボール戦機」では、イナズマイレブンにおいて反省点としていた玩具領域との連動を強化。新規作品のプラモデルでも子どもたちに売れるという成果を収めたという。日野氏によれば、このようにクロスメディア戦略も強化と進化を繰り返しているという。
大ヒットが記憶に新しい妖怪ウォッチにおいてキーワードとしていたのは「全方位クロスメディア」。日野氏は、前述の2つのプロジェクトの経験と一定の成果を収めたことによって、クロスメディア戦略に賛同する企業がすでに存在している状況が背景にあったことから、早い段階から多方面での展開を可能とし、大きく花開いたと振り返る。実際、映画化については、まだゲームがヒットするかどうかも分からない段階で、東宝から打診を受けたと明かした。
クロスメディア戦略におけるゲーム以外の領域でも、レベルファイブではかなり踏み込んで関わっていることを明かす。それは「他のメディアとの連携がきちんと取れるように、例えばおもちゃが企画されているのであれば、アニメの物語に組み込むというような、全てが主役になれる構造を作る」ということを意識しているという。
例えばテレビアニメの場合、番組スタッフの選定から設定面、アートワークやシナリオに至るまで、日野氏の管轄で進められたという。オムニバス仕様やシリーズ内シリーズといったバラエティ番組を意識した構成としたのも「よくある子ども向けアニメにはしたくない」という日野氏からの提案と振り返る。ここまで踏み込めるのも、イナズマイレブン時代から入り込んでいたことを通じて、テレビアニメ側との“仲間意識”があったからこそとも付け加えた。一緒に見ている大人も意識して入れていたパロディや過激、下ネタはたびたび苦情もあったと語ったが、ことパロディに関しては、人気の上昇にともなって逆に原作者や権利元から打診が来るようになり、承諾を得て入れ込むようにしたという。
例年年末に上演している映画について、2016年末に公開した第3弾では、アニメパートと実写パートの両方で展開するという珍しい内容となっていた。日野氏によれば、当初フルCGを用いた実写映画を検討していたが、映画全編を制作するには、年末公開のスケジュールが間に合わないと進言されたという。そのため、制作できる分の実写パートとアニメパートの両方を組み合わるという、制約を逆手に取る形で作品が出来上がったと明かした。
そして、なにかと話題となった「妖怪メダル」について。従来考えられるクロスメディアは、露出を多くするなどタッチポイントを増やし流行している感覚を生み出すものとしているが、これまでのクロスメディア戦略では仕掛けなかった新しい施策だったという。
この妖怪メダルを単なるひとつの玩具として販売するだけではなく、雑誌やTシャツなどのアパレルなどでも付属する形で、さまざまなメディアを通じて提供し、ゲームやアーケイド用筐体、玩具などで活用できるようにするという、妖怪メダルを軸にお互いが連動することにより大きな相乗効果を生み出したと語る。
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