自動車は仮想技術を利用して設計されることが増えており、そのプロセスでシミュレーションの果たす役割も大きくなっている。したがって、そうした設計プロセスの早い段階でデジタルモデルやデータをより効率的に扱う手段として、エンジニアが仮想現実(VR)や拡張現実(AR)を検討するようになったのは至極当然のことだ。自動車メーカーとして初めてMicrosoftのARヘッドセット「HoloLens」を自社のエンジニアリング用ツールキットに組み込んだVolvoは、そうした動きの最前線にいる。
「Volvo 90」シリーズの自動車はその格好の例だ。「XC90」や「S90」の最初のテストミュール(テスト用車両)が作られ、洗練されていく前に、同シリーズで採用される新プラットフォーム「Scalable Product Architecture(SPA)」が設計され、コンピュータシミュレーションで何百回もテストされた。衝突テストからサスペンションの動力、運行性能、NVH(騒音、振動、ハーシュネス)まで、ありとあらゆることを、大幅に短縮された期間と低減されたコストでコンピュータ内でシミュレーションし、テストすることができる。
Volvoは先頃、自動車メーカーとして初めてMicrosoftと提携し、HoloLensをエンジニアリングワークフローの一環として使用することを発表した。筆者は先頃、スウェーデンのヨーテボリにあるVolvoの本社に招かれ、HoloLensを自分で試す機会を得た。そして、HoloLensがデジタルエンジニアリングと設計プロセスにもたらす利点を自分の目で確認することができた。
ゲーム分野のニュースをチェックしている人は、既にHoloLensのことをよくご存じのはずだ。MicrosoftのHoloLensに関する初期の発表やデモは、主にゲームに関するものだった。Volvoは同テクノロジを使用する最初の自動車メーカーであるだけでなく、筆者の知る限り、ゲーム以外に応用した早期の事例の1つでもある。
ご存じでない人のために説明しておくと、HoloLensはAR(または「複合現実」)ヘッドセットで、ユーザーが見ている現実世界の風景の上にモーションコントロール対応のフルカラーの画像を重ねる。「Google Glass」の機能が倍に強化されたような製品だ。HoloLensは頭部にマウントされた4つのカメラと加速度センサを使って、装着者の周囲を常時スキャンすることで、頭の動きと3D空間内のユーザーの位置を追跡する。トラッキングは十分な精度であり、ユーザーは部屋の中を歩き回って、あらゆる角度から3Dモデルを見ることができる。部屋中にビーコンを置く必要はない。
詳しく知りたい人は、CNETのレビュー記事を参照してほしい。
HoloLensのARが「Oculus Rift」やHTCの「Vive」、Googleの「Daydream」などのVRシステムに比べて優れている最大(そして、ほぼ唯一)の点は、ユーザーが外側の世界から完全には遮断されないことだ。ユーザーはHoloLensを装着しても、自分が今いる部屋や自分の周りの人間を見て、対話することができる。HoloLensの開放型スピーカーも、周囲の音を聞く妨げになることはない。
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