未来へのヒントがみつかる次世代デジタル戦略

ケイ・オプティコムの「mineo フリータンク」--ユーザー同士がパケットを共有する“助け合い”サービス - (page 2)

イノベーションの礎となった、徹底的顧客目線とチャレンジ精神

——コミュニティを活性化させるには短期的なキャンペーンを設け、一時的に“お祭り”のような状況をつくり出すのが一般的な手法ですが、あとにも続くビジネスサービスの一環のような施策を生み出すには、どのようなチーム編成で臨まれたのでしょう。

 プロジェクトの発足当時は戦略と構想を考える者が2人、実際のサービス設計者が2人、さらに電通さんの5人という編成で、メンバー内にはマイネ王の運営担当もいます。と言うのも、これは弊社全体の社風でもあるのですが、新たなサービスを起こすにも、何よりお客さま起点で考えようと。するとサイトを運営し、そこに届く声に向き合ったり、会員数の伸び悩みに案を巡らしたりと、日々、ユーザーの動向に直面する者の意見やアイデアが欠かせません。

 実際に形となったmineo フリータンクも、徹底的なお客さま起点。「余ったパケットを預け、足りない人は引き出す」という仕組みなので、正直、我々には1円の儲けもないんです。事実、月のパケット上限を超えたときの追加チャージとして、100Mバイトを150円で販売していますが、mineo フリータンクに参加していれば、ある意味、無料で1Gバイトもらうことができます。そのため、追加チャージの売上げは確実に落ちているんです(苦笑)。 しかし、これはおそらく、事業者目線では、絶対に生まれてこないアイデアです。

ケイ・オプティコム モバイル事業戦略グループ グループマネージャーの上田晃穂氏
ケイ・オプティコム モバイル事業戦略グループ グループマネージャーの上田晃穂氏

 また、こうしたお客さま起点のアイデアを形にできたのは、もう1つ、弊社に息づくチャレンジ精神という社風があってこそ。あまりに考えすぎてタイミングが遅れるくらいなら、まずはやってみよう。うまく行かなければ、そのとき修正すればいいじゃないかという社風が、サービス実現の追い風となりました。

ローンチ後、ユーザーの声から浮き彫りになった成功の理由

——そのチャレンジ精神がなければ、イノベーションは生まれない。「コードアワード2016」で評価された大きな要因もそこにあると思いますが、明確なゴール地点やKPIなどは、どのように設定されたのでしょうか。

 マイネ王の会員者数を増やすという明確な意図があったので、その時点でユーザーの5%だった会員数を10%に増やすという点を、KPIに設定しました。また、実際に会員数が増えたあとには、マイネ王に投稿されるコメント数や新しいアイデアの数なども、数字として追いかけようと。

——そうした目標設定から、実際にフタを開けてみると。

 いろいろと議論を重ねる中で、そもそもパケットを預けるユーザーが存在するのかという疑問も上がりましたし、そうしたときには礎となるパケットを弊社から提供するという話まで持ち上がりました。しかし、実際にスタートしたところ、こうした心配が完全に吹き飛ぶほどの滑り出しだったんです。

 と言うのも、加入者に抽選でプレゼントが当たるという開始キャンペーンを実施し、「皆さんが預けてくれたパケットの合計が500Gバイトを超えたら、プレゼント数を2倍に!」というプラス要素を設けところ、たった1日で500Gバイトを超えてしまったんです。まさに予想以上の反響です。

 この結果を受け、コードアワード2016の贈賞式で審査員の方もおっしゃっていたように、海外では通用しなかった、日本だからこそ成功したサービスだと感じました。開始当初も今現在も、弊社でしか実施していない真新しいサービスですが、「もったいない」や「困ったときはお互い様」というフレーズに象徴されるように、アイデアそのものは、そもそも日本人の気質に非常に合っていたんだと思います。

——私も先日、受賞施策を海外に紹介する機会があり、mineo フリータンクの説明もさせていただきましたが、やはり海外の方は、とても驚いていましたね、「本当に預ける人がいるの?」と(笑)。

 提供者である私たちも心配しながらのローンチでしたから、無理もありません(笑)。さらに「日本人の気質に合ったサービス」というのも、実際に利用くださるユーザーの声から見えてきた側面が大きいんです。

 mineo フリータンクではパケットを預ける際、一般に公開される形で任意にコメントが残せますが、「余ったので預けます」だけでなく、「先月、助けられたので、今月は多めに預けます」ですとか、「いつかお世話になると思うので、まずはおすそ分けです」という声もあります。こうしたコメントを見ていると、やはり日本だからこそというのを痛感しますね。

「だから私はmineo」を選ぶ。新サービスが事業の代名詞に

——予想以上の数字と反響があった一方で、ビジネスインパクトを心配する声はなかったのでしょうか。

 先ほども申し上げました通り、100Mバイト150円で販売している追加チャージを購入するユーザーの方は、ほとんどいなくなりました。しかし、新たに加入されたユーザーの声に耳を傾けてみると、「余ったパケットを有効活用できるのはここしかない」と、mineo フリータンクがmineoの代名詞のようになっています。また、これも日本人特有と言いますか、ちょっと不思議な現象ではあるのですが、「皆さんにお裾分けをするために、パケット上限が高めのプランに変更しました」という声まであるんです。

 たしかに目先の売上げが落ちた側面はありますが、mineo フリータンクによってユーザー同士が助け合いの感覚を味わい、「だから私はmineoを選ぶ」と言ってくださる。喜ばしいのはもちろん、チャレンジして良かったと思うばかりです。

——ユーザー目線を第一に考え、それが見事にビジネスにも反映されている素晴らしい事例ですよね。その大きな要因である“助け合い”を刺激するこの仕組みは、どのような技術で成り立っているのですか。

 mineo フリータンクを実施する以前から提供している、「パケットギフト」というサービスの技術を応用しています。たとえば、特定のAさんから特定のBさんに向けて「パケットを差し上げます」と、プレゼントできる仕組みです。

 技術的にはこの仕組みをうまく活用し、膨大なパケット量をやり取りする“フリータンク”という名前の仮想ユーザーを立てているイメージです。「フリータンクさんに1Gバイト差し上げます」ですとか、「フリータンクさんから1Gバイトいただきます」といった形です。

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