海外の動きと協調--教育分野のソフトやデータの国際標準化団体、日本で設立

 教育分野で利用されるソフトウェアやコンテンツ、データの国際標準化を進める一般社団法人日本IMS協会が6月3日に設立された。

 内田洋行、デジタルナレッジ、日本電子出版協会、ネットラーニングホールディングス、法政大学情報メディア教育研究センター、放送大学の6団体が設立メンバーとなり、今後、約20社まで参加企業を拡大。この分野での世界的に活動している米IMS Global Learning Consortium(IMS-GLS)との連携も図る。

日本IMS協会 会長 白井克彦氏(放送大学学園 理事長)
日本IMS協会 会長 白井克彦氏(放送大学学園 理事長)
日本IMS協会 理事 山田恒夫氏(放送大学教育支援センター 教授)
日本IMS協会 理事 山田恒夫氏(放送大学教育支援センター 教授)

 日本IMS協会の会長に就任した放送大学学園理事長の白井克彦氏は、「eラーニングや教育ICTでソフトウェアやコンテンツ、データはますます重要性を増している、その一方で、標準化しないと相互運用性を取ることができないという課題が発生する。相互運用性を実現することで、共有や再利用、開発コストの低減を図っていくための標準化活動を進めるのが役割」だとした。

 理事を務める放送大学教育支援センター教授の山田恒夫氏は、「日本の教育分野では、国際標準による相互運用性についての考え方が普及しておらず、大学機関などが独自にルールを作ってきた経緯がある。一度開発されたものを国際標準のもとで共有できるようにすることで、開発の無駄などを解消できる。日本でしか通用しないものを開発するのではなく、国際的に利用できるようにすることで、日本の教育機関が蓄積した資産が世界的に貢献できるようになったり、日本のeラーニング関連企業がグローバルに進出できたりといった環境を作ることもできる」と意義を強調した。

 「IMS-GLSには、これまで日本の企業は参加しておらず、同コンソーシアムで標準化を進めている開発途上の文書は、知的財産の保護の観点から会員にしか公開していなかったため、日本の企業は開発に関与できないという課題もあった。日本IMS協会の設立とともに、日本からも参加するとともに、日本IMS協会の会員会社に対して情報を公開する仕組みとした。日本IMS協会は、IMS-GLSとは独立した団体だが、密接な関係を持っていきたい。世界的な流れとの調和を取る役割も担う」(山田氏)

 IMS-GLSは、学習履歴を保存するデータ形式を標準化し、システムを超えて利用したり、分析したりできる「IMS Caliper Analytics」、学習管理システム(Learning Management System:LMS)と学習ツールのAPI標準化により、開発したソフトウェアがプラグ&プレイで利用できるようにする「IMS LTI(Learning Tools Interoperability)」、電子書籍でオフライン時に実施したテスト結果をLMSに送信、保持するための「EDUPUB」などを標準化している。日本IMS協会もこれらを採用することになるという。

 「IMS Caliper Analyticsでは、約25の項目で標準化が進んでおり、教育情報をビッグデータとして活用したり、学習履歴がシステムを超えて利用したりできるようになっている。学習履歴を解析することで学習のパーソナライゼーション化するためのツールとして、あるいは、eラーニングのプラットフォームとして使えるようになる。APIが標準化されることで、何も手を加えることなく、ウェブブラウザ上でアプリやコンテンツが利用できる環境も整う。EDUPUBで電子書籍を通じたテストが可能になるなど、学習プラットフォームとしての広い活用が見込まれる」とした。

 IMS-GLSは、1995年にプロジェクトをスタート、1999年に法人化している。日本IMS協会はIMS Japan賞を創設し、これをIMS-GLSが実施しているLearning Impact Awardの日本の地区予選に位置付ける考えも示した。

日本IMS協会 副理事長 大久保昇氏(内田洋行代表取締役社長)
日本IMS協会 副理事長 大久保昇氏(内田洋行代表取締役社長)
日本IMS協会 副理事長 岸田徹氏(ネットラーニングホールディングス代表取締役会長兼CEO)
日本IMS協会 副理事長 岸田徹氏(ネットラーニングホールディングス代表取締役会長兼CEO)

 「IMS Japan賞教育分野で優れた実践例を検証できる。Learning Impact Awardは、厳しい審査が行われており、前回は各国の教育関連ベンダーなどが応募し、40件の応募に対して8件が通過しただけである。IMS Japan賞の上位3社を米国で行われる本戦に自動的に参加できるようにする。日本の優れた教育分野の事例が海外にも提案できる機会になる」と述べた。

学習者へのメリットに向けた一歩

 副理事長に就任した内田洋行代表取締役社長の大久保昇氏は、「これまで学習ログなどの教育現場で発生したデータを相互に活用するという例は日本では少なかった。今回の標準化の取り組みによって、ICT教材の活用促進につながることを期待している。また、日本で開発されたものが、世界で通用するようになる点でも期待をしたい」と語る。

 また、同じく副理事長に就任したネットラーニングホールディングスの代表取締役会長で最高経営責任者(CEO)の岸田徹氏は、「日本は、企業でのeラーニングは世界的にも進んでいるが、大学や高校、中学校、小学校といった教育分野での活用は、米国の影響を大きく受けている。日本は追いかける立場にある」と現状を解説した。

 「日本でeラーニングが登場してから20年を経過しているが、学習履歴を使った個別指導の部分は、ブラックボックス化していたり、学習履歴がバラバラでつながりができなかったりという問題があった。企業を転職しても、学習履歴を持ち運ぶことができたり、指導側もそれを活用したりといったことが可能になる。今回の取り組みは、学習者側のメリットに向けた一歩になると考えている」(岸田氏)

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