2月18日に開催された、2020年を見据えたテクノロジのカンファレンス「CNET Japan Live 2016 Target 2020」で、学校教育におけるICTの活用に関するパネルディスカッションが実施された。
所得の違いによる学力格差、習熟度の違いによる一斉授業の難しさ、公立学校のネットワークインフラ不足など、教育に深く携わる立場でしか知り得ない観点から、3社がその解決策として進めている独自のアイデアや取り組みを披露した。
登壇したのは、動画を用いた受験生向け学習コンテンツ「スタディサプリ(旧受験サプリ)」などを展開しているリクルートマーケティングパートナーズの代表取締役社長である山口文洋氏、2016年4月に開校予定の通信制高校「N高等学校」校長に就任するドワンゴの奥平博一氏、円滑な学校教育の実現を目指す「Google for Education」の統括責任者であるグーグルの菊池裕史氏の3人。
モデレーターは、CNET Japanの連載「スマートフォンネイティブが見ている世界」の著者で、小学校教員の経験もあるITジャーナリストの高橋暁子氏が務めた。
高橋氏から最初の質問は、学校における課題と、ICTによって学校で実際に可能になっていることは何か、というもの。これに対して山口氏は、自社のオンラインラーニングサービスであるスタディサプリというICTツールによって、子どもが自分のペースで勉強し、志望大学への合格など自己実現を果たすためのサポートとして、全国5000校の高校のうち700校に使われていると伝えた。
もちろんツールを導入するだけではない。「教育の本質はリアルな先生と生徒との間のコミュニケーション」(山口氏)であり、思ったように学力の上がらない子どもに対しては、保護者と教師がICTツールの使い方をサポートすることが重要だという。ICTツールによって子どもの勉強へのモチベーションの維持や、子どものレベルに合ったパーソナライズ化した学習が可能であることから、現在はそういった視点でより効率的な教育の場を作ることに注力しているそうだ。
一方、菊池氏によれば、日本の学生の基礎学力は圧倒的に高く、公立学校で行われている教育は“良くできている”と世界的に認識されており、「日本の先生は世界からすごく評価されている」と語る。日本の教師のICTに関わるリテラシーは決して高くはないが、「今の教育が極めてうまくいっているので、学習の到達目標が定められているものであれば、特にICTは必要ない」と説明する。
とはいえ、「ゼロから1を作り出す力や、物事を批判的に読み解く力」のような、子どもが現在学校で学べていないスキルが必要になった時に、ICTが活用されることになるだろうと同氏は見ている。今は主に受験に備えるべく「記憶して、再現できる」スキルを身に付ける教育が求められているが、そこから「教育のレベルが変わってきた時にICTが必要になる」というわけだ。
奥平氏はまたそれとは異なる観点からICTの役割があると見ている。学校の教師が教えられることは、教師自身がすでに知っていることと予習した範囲のみであり、当然ながら「限界がある」とする。
ほかの多くのことは「Google先生に聞けばすぐに分かる」ことから、教師の本来の役割、やるべきことは、「情報が氾濫するなかで、子どもの進路、子どものやりたいことに向けて情報をしっかり“編集”してあげること」であり、ICT化によって教育コンテンツを効率的に提供できるのであれば、その分、教師が子ども一人ひとりをフォローするための時間を作れるのではないかと同氏は考えている。
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