先述の通り、世界的に高い学力を実現していると言われる日本の学校教育だが、パネリストの3者からは異口同音に「学力の格差」と、ICTを活用した「個別学習の方向性」について語られた。まず山口氏は、「マクロ的には日本の学力は高いが、ミクロ的な分布で見ると“フタコブラクダ”になっている」と指摘した。学力の高い学生と、低い学生の両極端になっているケースもあるというのだ。
学力は主に所得の差が大きく影響していると言われている。経済的な事情により、塾や予備校など学校以外の学習機会に差が生まれ、習熟度が異なってくる。その結果、平均的な学力をもつ子どもに向けた一斉授業が難しくなる。授業の内容をすでに理解している子どもも、逆に分からない子どもも、自分の理解度と合わない授業になってしまうことがあるという。
こうした場合、スタディサプリのような個人の学力に合わせた学習コンテンツや、苦手なポイントを対策する学習プランを作れるサービスを使えば、学力の差をある程度埋めていける。「わからないところを学びなおせる仕組みにすることで、基礎学力の底上げをする。そこがICTが最も貢献できるところではないか」と山口氏。実際、スタディサプリは離脱率の低さや授業内容の満足度で高い評価を受けており、山口氏は大きな手応えを感じているという。
菊池氏も、「(教師1人と学力に差のある大勢の子ども、という意味で)“1対多”でものを話すのは難しい」と言い、個別型の授業は1つの方向性だと述べる。ただ、オンラインコンテンツによる学習については、サービス内容が十分でない場合などには「学習離脱率、退学率が高い」ケースもあるという。
授業内容をそのままオンライン化したサービスでは修了する確率が低い事例もあり、さらに個人の学び方の特性を考慮して最適な学び方に自動カスタマイズしていく“アダプティブラーニング”という手法でも、やはり離脱率などの問題は残っているとした。
オンライン学習が抱えるこの課題について菊池氏は「学校の中で対面で学んでいくのが、そのサポートになる」と言い、「教師がファシリテーターとして入っていく」ことが必要だと語った。
奥平氏は、一斉授業の難しさに対しては、同氏が進める通信制のN高等学校に利点があると話す。「他の人に自分が何をしているか分からないので、カリキュラムの初めの方に戻ったりしても恥ずかしくない」という点で通信制の個別学習型は有効だとし、学校では友人関係よりも学習遅れ、いわゆる“(落ち)こぼれていく子”になってしまうのが、問題としては大きいと指摘した。
このように、学校へのICTの導入に利点は多いと考えられるものの、実は全く別のレベルの課題もある。山口氏は「公立学校にICTを効率的に動かせるネットワークインフラが不足している」ことが課題であると述べる。
スタディサプリを導入した高校はすでに700校と全国に広がりを見せているが、私立やインフラ整備に積極的に取り組んでいる自治体の学校が多いという。学校では86%が有線LANを設置しているものの、インターネット回線にADSLを採用しているケースも少なくない。さらに職員室や視聴覚室でしか利用できないということもある。
山口氏は、ICTの構成要素をソフトウェア、ハードウェア、ネットワークの3つとした時、最も投資すべきはネットワークであると強調する。ハードウェアは子どもそれぞれが個人でもつスマートデバイスで代替するか貸与で対応でき、ソフトウェアはスタディサプリのような比較的安価なツールがすでにあるため、学校の予算で十分にまかなえる。残るネットワークに投資することで、教育現場へのICTの導入を促し、教育環境を改善できると提案した。
では実際にICTが導入されると、今後、教育現場はどのように変わっていくのだろうか。高橋氏から最後に投げかけられた質問に奥平氏は、「今までは教育を学校という建物の中でやっていたが、未来の学校に壁はいらない。日本中、世界中が教室になる。リアルと区別のつきにくいバーチャルでやることで、子どもたちは本当の選択肢を見つけられる」と力強く語った。
菊池氏は、「子どもたちが学びたい内容を、自分たちのペースできちんと学べていける環境を、ICTを使って整備できる」と話し、山口氏は基礎学力の底上げにとどまらず、一部の学校で行われる予定の東南アジアの進学校との“放課後ディベート”のような新しい取り組みで「気軽に国境を越えて世界とつながっていける」のもICTの魅力だと説明した。
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