2月18日に開催された「CNET Japan Live 2016 Target 2020」では、2020年の東京オリンピックに向けて産業や各種業界で起こるであろう、テクノロジによってもたらされるパラダイムシフトが大きなテーマだった。過去を振り返っても、放送や通信を中心にオリンピックとテクノロジの発展は密接な関係にある。
今回は、基調講演「これからの百貨店の価値創造 ~三越伊勢丹の挑戦~」の概要を取り上げる。アナログ企業の代表格といもいえる百貨店の事例を学べば、デジタルをビジネスに活用するヒントが得られるかもしれない。
同講演の登壇者は、三越伊勢丹ホールディングスで秘書室 特命担当 部長を務める北川竜也氏。キャリア構築の過程でベンチャ企業の創業に参画した際、日本の職人などによる工芸品を世界に向けて販売するEコマース事業の経験をいかし、三越伊勢丹ホールディングスに入社した人物である。
このEコマース事業を立ち上げて運営する過程では、商材を見つけることやオンラインで販売する許可を得ることは難しく、さらにベンチャ企業の知名度の低さと相まって苦労したという。こうした作業は、そもそも百貨店が得意としてきた分野で、同じように苦労するものの三越伊勢丹の名刺が持つパワーは絶大で、百貨店ブランドの力を思い知らされたと語った。
百貨店には、長い歴史のなかで築き上げた顧客との関係、おもてなしの心、のれんのブランドに加え、メーカーや職人、デザイナーとのネットワークといった「アナログの価値」が数多く存在する。北川氏はここまで歴史のある企業に関わった経験がなく、アナログ企業に入るのも面白いと感じて入社を決めた。
そんな長い歴史を持つ三越伊勢丹は、保守的なイメージに反し、新しいことには前向きに取り組んでいるという。ところが、婦人服や玩具など各商材に対する専門性の高さという強みが逆に作用し、横の交流があまりない。その結果、分野ごとのウェブサイト構築やモバイルアプリ開発が勝手に走ってしまい、前向きさがかえって顧客への総合的な価値提供の弊害になっている。
ウェブやアプリといったデジタル技術の観点で見ると、分野の相違などに意味はない。応用範囲の広い技術やサービスを持っているのだから、横串を通せば横展開できるはずなのに、それが実現できずにいる。バラバラに動く社内に働きかけ、部門間を調整し、プロジェクトのタスクフォースを結成させることが、特命担当部長に就任した北川氏の役目だ。
北川氏は、店舗とECの売上を分けて考えることのおかしさも指摘する。例えば、来店した顧客が商品を選び、電子決済で代金を支払い、自宅に配送してもらうとしたら、実店舗販売なのかEC販売なのか区別できないと話す。また、百貨店が顧客の体形サイズデータを保存しておき、指定されたデザインの服をそのサイズで自動縫製して工場から直送すれば、店舗のラックに服をつるす必要もなくなる、といった未来像も示した。
そこで、デジタルを経営の根幹に据え、店舗とECを融合させた顧客サービスの実現を目指している。
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