CNET Japan Live 2016

人間と機械のコラボレーションの可能性とは--電通国際情報サービス「イノラボ」の取り組み

 2月18日に開催された「CNET Japan Live 2016 Target 2020」では、2020年の東京オリンピックに向けて産業や各種業界で起こるであろう、テクノロジによってもたらされるパラダイムシフトが大きなテーマだった。過去を振り返っても、放送や通信を中心にオリンピックとテクノロジの発展は密接な関係にあった。

 当記事は、このテーマに沿って実施された講演のなかから、特にオリンピックを意識した「人間中心にデザインする、2020年とその先のTOKYO~未来に遺すべきオリンピックパラリンピック・レガシー~」の概要を取り上げよう。

オリンピックを意識した講演「人間中心にデザインする、2020年とその先のTOKYO」
オリンピックを意識した講演「人間中心にデザインする、2020年とその先のTOKYO」

アイデアを素早く形にして世に問うイノラボ

 この講演は、電通国際情報サービス、2020テクノロジー&ビジネス開発室オープンイノベーションラボ部長兼チーフプロデューサーの森田浩史氏が、同社のオープンイノベーションラボ(イノラボ、INNOLAB)で実践している具体的な事例を紹介した。

イノラボのリーダーを務める森田浩史氏
イノラボのリーダーを務める森田浩史氏

 イノラボは、電通グループが取り組んでいるオリンピックへ向けた動きのなかで、特にIT関連をカバーするグループ。2011年に活動を開始した。先端技術を活用して新たなライフスタイルを世界に先駆けて提唱することを目的とするが、一般的なシンクタンクで進められる研究と異なり、プロトタイプ開発や実証実験などを通じ実際に動くものを作って社会に投げかける運営方針を掲げる。

 主な活動領域は、街づくり、観光、スポーツ、ヘルスケア、モビリティ、教育。対象技術はユーザーインターフェース/ユーザーエクスペリエンス(UI/UX)、拡張現実/仮想現実(AR/VR)、センサ、ウェアラブルデバイス、モノのインターネット(IoT)、人工知能(AI)、機械学習(マシンラーニング)と幅広い。

 技術開発から実装、事業展開までのすべてをイノラボでカバーすることは難しい。そこで、優れた技術シーズを保有するさまざまな企業などと、世の中のニーズを組み合わせ、多彩なアイデアを迅速に実装して次々と実験していく。そのため、アイデアを見い出す「出会って つながって 創発する 実験の『場』」として「INNOLAB CONNECTING STUDIO」を開設し、年間500社と話をしているそうだ。

 ちなみに2011年から5年間の実績は、約2500回のセッションをこなし、その内120件のプロジェクトに着手し、12件を事業化に橋渡ししたという。森田氏は、一般的な事例に比べて事業化の率が高いと話す。

 では、そんなイノラボの取り組みは、どのような判断基準で達成されたのだろうか。森田氏は、企業などから日々持ち込まれるアイデアを実行に移すかどうかを「ビジョン」「テクノロジー」「デザイン」という3つの観点で考えると話した。これらが揃わないとムーブメントを起こせないとのことで、ぜひ参考にしたい。

都市と観光、文化、遊びを技術でつなげる

 イノラボでは、観光、文化、遊び、Interface、情報を念頭に置き、「人間中心にデザインするTOKYO」をさまざまな方法で具現化してきた。

 「都市と観光」の実例としては、東京国立博物館で実際に運営した「トーハクなび」がある。これは、ビーコンやARといった技術を利用し、タブレットを持った見学者の居場所や見ている展示物に合わせた関連コンテンツを提供する取り組みだった。博物館の展示はシンプルになりがちなので、そのままだと素通りしてしまうものに情報を付加することで関心を広げてもらおうとした。

 「都市と文化」で興味深かった事例は、ロボットを純粋にファッションとして身につける「ロボティクスファッション」のクリエイターである「きゅんくん」を紹介した。ロボットというと、通常は何らかの役に立てるための実用的なツールと考えてしまうが、きゅんくんの場合はまったく異なる見方でロボットをとらえている点がユニークである。

 「都市と遊び」の事例には、オリンピックを迎える東京のスポーツ気運を直接的に高められそうな「エブリスポ」がぴったりだ。「東京を運動場にしよう」をキャッチフレーズに、サイネージやウェアラブルデバイスを活用して街ごとみんなでスポーツをする枠組みを作った。位置情報ゲーム「Ingress」からも着想を得て、チームやミッション、コミュニケーションといった仕組みも取り入れている。

 エブリスポと同種のスポーツへの応用では、モーションセンサ「Kinect」を使って走行フォームをチェックできるシステム「Running Gate」が分かりやすい。このシステムでは、体にマーカーを装着することなく走り抜けるだけで走行フォームデータをリアルタイムに取得できるため、手軽な走り方の改善や矯正に応用可能だ。各種スポーツのトレーニングや負傷者のリハビリなどにも使えるだろう。

人間と機械のコラボでより高いレベルの処理を

 とかく注目はテクノロジばかりに集まりやすいが、森田氏は人間と機械をコラボレーションさせて相乗効果を出したいとしている。

 例えば、人間と機械が競うという点では、Googleの開発したAIベースの囲碁プログラム「AlphaGo」が欧州王者に勝った、という最近の話題がある。囲碁よりもシンプルなチェスの場合は、すでにIBMの「Deep Blue」が世界王者のGarry Kasparov氏を1997年に敗っている。

 機械に負けてチェスの人気が衰えたかというと、そうはならなかった。人間とコンピュータの共同作業でチェスをプレイする「advanced chess」という概念が、Deep Blueに敗れたKasparov氏から提唱されるなど、新たな展開があるのだ。

 森田氏は、このadvanced chessの面白さを人間独特の発見能力「serendipity」で説明する。機械と人間がコラボレーションすることで、より高いレベルの処理が可能になるという。

 イノラボは、今後も人間、街、テクノロジを結びつけたイノベーションを我々に提示してくれそうだ。

advanced chessのように、人間と機械のコラボが新たな展開を生み出す
advanced chessのように、人間と機械のコラボが新たな展開を生み出す

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