ではiPad Proが、従来のiPadと異なる点は何だろうか?
キーボードが接続できる新たな端子が加わったことや、Apple Pencilに対応したことが大きな要素だが、ハードウェアとして良くなっている。高機能というよりは、いずれもiPad用アプリの新たな展開を期待したものだと思う。
Smart Keyboardはストロークが深く、タッチや配列に慣れれば(残念ながら日本で一般的なJIS配列のキーボード設定はなく、英語版キーボードに使われているASCII配列のみしか用意されない)サクサクと文字入力ができるはずだ。しかし、だからといってパソコンの代替になるわけではない。
なお、JIS配列のキーボードは用意される予定がないとのこと。すでにいくつか発表されているようだが、サードパーティー製のキーボードに期待したい。
アルファベット以外のキー配列はMacやWindowsパソコンのルールとはかなり異なり、これは日本語入力時のiOSの振る舞いにも言える。キーボード上の「地球アイコン」を押すと言語の切り替えで、制御キーらしい制御キーもほとんどない。iOSのホーム画面に戻るキーすら存在しないシンプルなものだ(コマンド+SHIFT+”H”というホーム画面ショートカットはある)。パソコンでの作業に慣れた人が、そのままあらゆる処理をiPad Proでこなそうと思っていると、使い勝手に戸惑うかもしれない。
2分割して他の情報を見ながら作業を行うといった使い方はもちろん、画面サイズと画素数が拡がることで、ユーザーインターフェースそのものが変化しつつある。iPad Proの大きさと解像度を活かしたアプリを育てることとともに、アップルが今後取り組んで行かねばならないテーマだ。
とはいえ、Microsoft Officeなどを見る限り、単純に画面が大きくなっただけでも作業性は格段に上がっていた。iPadをモバイルPC代わりに使おうとしながらも断念してきた人たちは、もう一度トライしてみる価値がある。
一方、Apple Pencilには驚かされた。マルチタッチパネルの信号とペン側の回路の組み合わせでペン機能を実現しているようだが、詳細は例によって公表されていない。Microsoftが買収したN-trigという企業の技術と同様、ペンタブレット専用の検出レイヤーを持たないため、画面と保護ガラスの間にある隙間が小さく視差が少ない。昨今のオンセルタッチパネル化やダイレクトボンディングによる各層の貼り合わせ技術など生産技術向上も、こうしたタッチパネル層を活用したペン入力技術の価値を高めている。
このApple Pencil、使い始めると”ただのペン入力ツール”とはひと味違うフィールを持つことがわかる。視差の小ささから来る書きやすさは、Surface 3などに近いが、新たに手書き対応となった「メモ」アプリを使い始めると、体験レベルがかなり異なることがわかった。
まずApple Pencilにはキャリブレーション(微調整)の必要がない。購入後、使い始めるとすぐに”ジャスト”の位置にペン先と入力位置が合ってくれる。iOS内にも調整項目はなく、使用中に温度(さほど熱くもならないが)が変化しても入力位置がズレるといった症状もなかった。
さらに入力に対する応答性が極めて速い。従来のペン入力は入力から画面への反映に遅延があり、筆致はきちんと反映されるものの、感覚的に小さな文字が書きにくかった。しかし、Apple PencilとiPad Proの組み合わせでは、ポケット手帳に細かくメモを書き込む程度の小さな文字でも違和感なく入力できる。
ペンの傾きを検出する他のペン入力システムにはない特徴的な機能も備わっており、斜めにする角度によって塗りつぶしになったり、塗りつぶしの幅が変化する。振る舞いの自然さは、実装しているアプリにも依存するが、今のところどのアプリも上手に使いこなしている。
また、ペン先が近くにあることを検出していると、画面上に手を置いた時にも”タッチ”として反応しないようにする制御(パームキャンセル)が働いているようで、ほとんど指での操作とApple Pencilでの操作の切り替えを意識せず、自然に使える点も従来のペン入力に対する優位性だろう。
iPad Proの高性能や大画面、高精細画面や、正確で自然なフィールのペン入力など、新鮮な驚きも感じるが、その実力はまだ発揮し切れていないとも感じている。これからの対応アプリ次第で、この製品の価値は決まってくるだろう。
しかし最後に強調しておきたいのは、iPad Proはパソコンの置きかえを狙った製品ではないということだ。あくまでも基本はiPadにある。しかし、iPadのシンプルで誰もがマニュアルなしに使いこなせる操作感、製品としての位置づけを活かしながら、その先に”プロダクティビティ”を加えようとしている。
パソコンをタッチパネルとペン入力で、よりシンプルな端末にしたいと考えているMicrosoftとは真逆の方向だ。現時点ではApple Pencil対応アプリやアップル自身が提供するアプリで一端を感じられるだけだが、今後、アプリ開発者やサービス事業者などがその可能性に乗ってくれば、iPad Proの視界は拓けてくるはずだ。
まだ始まったばかりの取り組みだが、最初の一歩としては悪くないスタートと言えるのではないだろうか。
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