土屋氏は、アニメ表現をふんだんに取り入れ、板野氏をはじめとしてグラフィニカが参加した「アズラスラース」の制作背景について語った。本作はゲーム開発会社のサイバーコネクトツーとのタッグによって制作され、サイバーコネクトツーはマンガやアニメ作品をテーマとしたゲーム開発に定評があることからアプローチしたことに端を発していると振り返った。
昨今のゲーム市場において、コンシューマ向けパッケージタイトルを開発すると、少なくても10億円、さらに大きくなると数十億円のコストがかかるような背景から、海外販売を視野に入れて制作するのが大前提と土屋氏は語る。その上で、欧米の開発やゲームタイトルに対抗しても勝負にならないことから、海外では出せない日本の特色を強く押し出すことを念頭におき、またゲームジャンルを先に決めずコンセプトの設計から進めていったという。そこから「怒りをもって逆境を覆す」をコンセプトに据え、世界観やシチュエーションを設定するという、いわゆる王道のゲーム作りとは逆張りをした手法だと説明した。
またパッケージソフトの多くはボリュームを出すために、ひとつの物語が数十時間も続くようなゲームも少なくないことから、だいたい24分を1話、2クールのアニメのようなエピソードの区切り方をすることになり、結果的にアニメのような脚本構成や演出に近づいていったという。そのなかで、自分たちには持ち合わせていない、24分間のなかで物語を演出することに長けた人や会社と組み、化学変化を起こした方がよりコンテンツとして魅力あるものになるのではと考えたという。そしてサイバーコネクトツー代表取締役社長である松山洋氏の提案があり、板野氏ならびにグラフィニカに声をかけたという。
板野氏は、数分程度の単発ムービーではなく24分のシリーズ規模の提案に最初は驚いたが、両社の熱意や情熱を感じたこと、またこの仕事を通して携わったスタッフがスキルアップできることを期待して了承。実際に制作担当として携わった森口氏は「絵コンテの物量が半端なかった」と振り返る。関わった人数も多くない状況ではあったものの、チーム一丸としてこなすことができ、熱量も高く進められたという。同じく制作に参加した阿尾氏も物量が多かったが、ノウハウの吸収や良い経験もでき、それらが「楽園追放」などといった次の作品へのいい影響をもたらしてくれたとも語っていた。
板野氏もその後の作品において、担当領域に関係なく自ら名乗りを上げたスタッフに対して絵コンテの指導を行ったりサポートする形で実務をまかせるなど経験を積ませ、なかにはメーカーから直接指名で絵コンテの発注がくるようなスタッフが出てくるほどスキルアップしていったという。板野氏は「磨けば光る原石はいっぱいいる。そういう人が育っている」と語り、グラフィニカでもモーションチームだけでなく絵コンテが描けるスタッフも増え、仕事の幅も広がっていったと明かした。
講演の終盤では前述した指導の一環として行っている板野ゼミの一端を披露。表現者として自分の体で体感することを主眼として行っているとのことで、ここではカメラや双眼鏡の望遠レンズや広角レンズを活用し、例えばパンチが目の前に迫ってくる、ロボットのコックピットぐらいの高い視点から足元を見るといったことを通じて、アニメにおけるデフォルメの表現手法や監督が見ている主観的な視点を体感できるという。ほかにも作画における動画のカットについてレクチャーも行った。
トークでは業界に対する厳しい発言に終始した板野氏だが、端々で「少しでもいいものを」と繰り返し、業界の厳しい現状を諦めるのではなく、なんとか業界をいい方向に変えていく姿勢を見せていた。
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